ピアニスト
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ピアニスト (2001)
LA PIANISTE (原題) / THE PIANO TEACHER (英題)
 映画『 ピアニスト (2001) LA PIANISTE (原題) / THE PIANO TEACHER (英題) 』をレヴュー紹介します。

 映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』を以下に目次別に紹介する。
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の解説及びポスター、予告編
 ネタばれをお好みでない方はこの解説をご覧下さい。
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の映画データ
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』に因んでハンサム俳優10人
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』のスタッフとキャスト
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の<もっと詳しく>
 <もっと詳しく>は映画『 ピアニスト 』の「テキストによる映画の再現」レヴュー(あらすじとネタばれ)です。※ご注意:映画『 ピアニスト 』の内容やネタばれがお好みでない方は読まないで下さい。
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』と原作者エルフリーデ・イェリネク
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の主人公演じるイザベル・ユペール
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』、シューベルトについて
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』、シューベルト歌曲集「冬の旅」
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の結末
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の感想(ネタばれご注意)
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の更新記録

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幸の鑑賞評価: 8つ星 
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の解説及びポスター、予告編
ピアニスト
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Trailers: 
■『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の解説

 まず、ピアニストやピアノに関わる映画は良いドラマがある。『 戦場のピアニスト (2002) THE PIANIST 』『 ピアニスト (2001) LA PIANISTE (原題) / THE PIANO TEACHER (英題) 』『 海の上のピアニスト (1999) THE LEGEND OF 1900 』『 ピアノ・レッスン (1993) THE PIANO 』だ。
 本作『 ピアニスト 』は、 2001 年、カンヌ国際映画祭でグランプリ・主演女優賞・主演男優賞の三冠に輝いた。(因みに 2001 年パルムドールは『 息子の部屋 (2001) LA STANZA DEL FIGLIO (伊題) / THE SON'S ROOM (英題) 』)映画『 ピアニスト 』は、ドイツ・ミュンヘン出身のミヒャエル・ハネケ監督の作品だ。精神的に屈折したピアノ教師を演じて、『 ピアニスト 』で主演女優賞を獲得したイザベル・ユペールにはもちろん感心したけれども、『 ピアニスト 』主演男優賞のブノワ・マジメルには本当に心奪われた。映画『 ピアニスト 』での役どころも、卓越したピアノの才能、美しい容姿、理系の頭脳、アイスホッケーをする運動神経を持つといった、完全無欠の青年で、黒いセーターとジーンズ姿がカッコよすぎた。フツーのラブロマンス映画のブノワ・マジメルが観たい!!!
 映画『 ピアニスト 』では、ウィーン国立音楽院のピアノ教師エリカ・コユットは、 38 歳の独身女性で、異性と関係を持つことも無く、彼女の全てを管理しようとする母親(アニー・ジラルド)と二人で暮らしていた。そんな母親の影響なのだろう、自分を傷つけたり、覗き部屋に通ったりと、彼女の性向は異常だった。そんな彼女の前に、彼女を愛する美青年ワルター・クレメールが現れた…。
●スチルはnostalgia.com、予告編はcinemaclock.comより許諾をえて使用しています。
Filmography links and data courtesy of The Internet Movie Database & Nostalgia.com.
Filmography links and data courtesy of CinemaClock Canada Inc.
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■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の映画データ
 上映時間:132分
 製作国:フランス/オーストリア
 公開情報:日本ヘラルド映画
 フランス初公開年月:2001年9月5日
 日本初公開年月:2002年2月2日
 ジャンル:ドラマ/ロマンス
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■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』に因んでハンサム俳優10人
 「映画の森てんこ森」内にある、幸が思うハンサム俳優10人が出演している映画レヴュー
※アルファベット順。ハンサム俳優ブノワ・マジメルに因んだ企画なので欧米の俳優から選別。

【トム・クルーズ Tom Cruise】・・・『 ピアニスト 』に因んで
レインマン (1988) RAIN MAN
マグノリア (1999) MAGNOLIA
M:I−2 (2000) MISSION: IMPOSSIBLE 2 / M:I-2
オースティン・パワーズ ゴールドメンバー (2002) AUSTIN POWERS IN GOLDMEMBER
マイノリティ・リポート (2002) MINORITY REPORT 』等

ジョニー・デップ Johnny Depp】・・・『 ピアニスト 』に因んで
シザーハンズ (1990) EDWARD SCISSORHANDS
妹の恋人 (1993) BENNY & JOON
ナインスゲート (1999) THE NINTH GATE
スリーピー・ホロウ (1999) SLEEPY HOLLOW
ショコラ (2000) CHOCOLAT
フロム・ヘル (2001) FROM HELL
シークレット・ウインドウ (2004) SECRET WINDOW 』等

【レオナルド・ディカプリオ Leonardo DiCaprio】・・・『 ピアニスト 』に因んで
ロミオ&ジュリエット (1996) WILLIAM SHAKESPEAR'S ROMEO & JULIET / ROMEO + JULIET
タイタニック (1997) TITANIC
仮面の男 (1998) THE MAN IN THE IRON MASK
ギャング・オブ・ニューヨーク (2001) GANGS OF NEW YORK
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン (2002) CATCH ME IF YOU CAN 』等

【レイフ・ファインズ Ralph Fiennes】・・・『 ピアニスト 』に因んで
イングリッシュ・ペイシェント (1996) THE ENGLISH PATIENT
メイド・イン・マンハッタン (2002) MAID IN MANHATTAN
レッド・ドラゴン (2002) RED DRAGON 』等

【ヒュー・グラント Hugh Grant】・・・『 ピアニスト 』に因んで
いつか晴れた日に (1995) SENSE AND SENSIBILITY
ブリジット・ジョーンズの日記 (2001) BRIDGET JONES'S DIARY
トゥー・ウィークス・ノーティス (2002) TWO WEEKS NOTICE
アバウト・ア・ボーイ (2002) ABOUT A BOY
ラブ・アクチュアリー (2003) LOVE ACTUALLY 』等

【マチュー・カソヴィッツ Mathieu Kassovitz】・・・『 ピアニスト 』に因んで
アメリ (2001) AMELIE POULAIN / LE FABULEUX DESTIN D'AMELIE POULAIN 』等

【ジュード・ロウ Jude Law】・・・『 ピアニスト 』に因んで
リプリー (1999) THE TALENTED MR. RIPLEY
スターリングラード (2000) ENEMY AT THE GATES
コールド マウンテン (2003) COLD MOUNTAIN 』等

【ユアン・マクレガー Ewan McGregor】・・・『 ピアニスト 』に因んで
ブラス! (1996) BRASSED OFF
トレインスポッティング (1996) TRAINSPOTTING
リトル・ヴォイス (1998) LITTLE VOICE
ムーラン・ルージュ (2001) MOULIN ROUGE!
恋は邪魔者 (2003) DOWN WITH LOVE
ビッグ・フィッシュ (2003) BIG FISH 』等

【ブラッド・ピット Brad Pitt】・・・『 ピアニスト 』に因んで
セブン・イヤーズ・イン・チベット (1997) SEVEN YEARS IN TIBET
スパイ・ゲーム (2001) SPY GAME
オーシャンズ11 (2001) OCEAN'S ELEVEN
コンフェッション (2002) CONFESSIONS OF A DANGEROUS MIND
フル・フロンタル (2002) FULL FRONTAL 』等

【キアヌ・リーヴス Keanu Reeves】・・・『 ピアニスト 』に因んで
ミッドナイトをぶっとばせ!<未> (1988) THE NIGHT BEFORE
ドラキュラ (1992) BRAM STOKER'S DRACULA
マトリックス (1999) THE MATRIX
ギフト (2000) THE GIFT
マトリックス リローデッド (2003) THE MATRIX RELOADED 』等

《番外》
ヴァンサン・カッセル Vincent Cassel】・・・『 ピアニスト 』に因んで
エリザベス (1998) ELIZABETH 』
ジャンヌ・ダルク (1999) JOAN OF ARC / THE MESSENGER: THE STORY OF JOAN OF ARC
クリムゾン・リバー (2000) THE CRIMSON RIVERS / LES RIVIERES POURPRES
ジェヴォーダンの獣 (2001) LE PACTE DES LOUPS (原題) / BROTHERHOOD OF THE WOLF (英題)
シュレック (2001) SHREK 』等

トビー・マグワイア Tobey Maguire】・・・『 ピアニスト 』に因んで
サイダーハウス・ルール (1999) THE CIDER HOUSE RULES
スパイダーマン (2002) SPIDER-MAN
シービスケット (2003) SEABISCUIT 』等
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【『 ピアニスト 』のスタッフとキャスト】
監督: ミヒャエル・ハネケ Michael Haneke
製作総指揮: イヴォン・クレン Yvon Crenn
    クリスティーヌ・ゴズラン Christine Gozlan
    マイケル・カッツ Michaek Katz
原作: エルフリーデ・イェリネク Efriede Jelnek
脚本: ミヒャエル・ハネケ Michael Haneke
撮影: クリスチャン・ベルジェ Christian Berger

出演: イザベル・ユペール Isabelle Huppert エリカ・コユット
    ブノワ・マジメル Benoit Magimel ワルター・クレメール
    アニー・ジラルド Annie Girardot エリカの母
    アンナ・シガレヴィッチ Anna Sigalevitch アンナ
    スザンヌ・ロタール Susanne Lothar アンナの母
    ウド・ザメル Udo Samel ドクター・ブロンスキー

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ストーリー展開の前知識やネタばれがお好みでない方は、読まないで下さい。
■『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の「テキストによる映画の再現」レヴュー

【ピアニスト 第01段落 映画『 ピアニスト 』と原作者エルフリーデ・イェリネク@】  『 ピアニスト (2001) LA PIANISTE 』の原作者エルフリーデ・イェリネクは、女性の性や性的矛盾などを題材にした作品で、女性文学の代表者と考えられている。彼女は 1946 年 10 月 20 日にオーストリアのシュタイアーマルク州ミュルツツシュラークで生まれた。コンサート・ピアニストになることを夢見ていた圧制的な中流階級のカトリック教徒の母親によって育てられた彼女は、 1960 年からウィーン国立音楽院 Wiener Konservatorium でオルガン、ブロック・フルート、作曲などを学んだそうだ。1964 年にはウィーン大学 der Universitat Wien で演劇と芸術史を研究し、現在はウィーン、ミュンヘン、パリでフリーランスの作家として暮らしている。

追記:エルフリーデ・イェリネクさんは、 2004 年ノーベル文学賞を受賞。文学賞を受賞した 10 人目の女性となった。おめでとうございます! 1000 万スウェーデンクローナ(約 1 億 5000 万円)が賞金だなんてスゴイ!(下世話でスミマセン。)「小説や脚本の音楽のような言葉の流れは、並外れた言語的情熱を持ち、社会の既成概念や権力の不条理を暴いた」というのが受賞理由だそうで、ご本人はノーベル受賞について「大変な名誉だ」と喜んでいらっしゃるそうだ。しかし、対人恐怖症で式典に出られるような精神状態ではないそうで、ストックホルムでの授賞式には欠席するつもりらしい。(2004/11/24)

【ピアニスト 第02段落 映画『 ピアニスト 』と原作者エルフリーデ・イェリネクA】  父のフリードリッヒも精神病院で亡くなるなど、原作者と主人公は家庭環境が似ている。しかし、イェリネクは小説に自叙伝的要素が多く含まれていることを認めながらも、自分の作品を自叙伝として見られたくないと言っている。この小説が出版されたとき、オーストリアではポルノ小説だという批判もあったそうだ。確かにこの映画を観たとき、ギョッとするところもあったが、長年受けてきた母親からの精神的虐待で自分を失ってしまったエリカという女性の悲喜劇が、重く胸にのしかかる、哲学的な作品だと思った。エリカがワルターと初めて出会ったときにロベルト・シューマン Robert Schumann ( 1810-1856 ドイツの作曲家: 46 歳で精神病院で亡くなっている。シューベルトの研究家でもある)について語った、「完全な狂気にいたる直前の自己喪失」という言葉が、彼女自身の人生をも物語っていると思う。

【ピアニスト 第03段落】  エリカ・コユット(イザベル・ユペール:『 8人の女たち (2002) 8 FEMMES (原題) / 8 WOMEN (英題) 』『 いつか、きっと (2002) LA VIE PROMISE (原題) / GHOST RIVER (英題) 』等)はウィーン国立音楽院のピアノ教師である。彼女をコンサート・ピアニストにしたかった母親(アニー・ジラルド)とアパートで一緒に暮らす彼女は、38 歳という年齢にもかかわらず、化粧もせず、恋人もいず、母親の支配のもとですっかり自分を失っていた。言い換えれば、母親という他者を通してしか、自分を見つけられないでいた。彼女の生活は、過保護な母親のせいで子供の頃となんら変わりがない。エリカの帰りが遅いと、今日も娘の鞄を取り上げ、中身を確認する母親。見たこともない洋服を見つけた母親は激怒し、エリカと洋服を取り合う。弾みで洋服が破けてしまったことにキレたエリカは、「クソババァ」と母親の頭に掴みかかる。しかし、少しして二人が落ち着くと、母娘は抱き合って泣くのだ。そして二人一緒のベッドに眠る。

【ピアニスト 第04段落】  音楽院でピアノの個人指導を行うエリカの生徒への口調は、全てが命令で高圧的だ。きっと子供の頃から、同じように高圧的な母親と、自分を指導するピアノ教師たちとしか、彼女は接したことがないからだろう。見込みがあると考えている生徒のアンナ(アンナ・シガレヴィッチ)には、エリカは自分が得意としているシューベルト Franz Peter Schubert ( 1797-1828 オーストリアの作曲家)を教えていた。エリカはアンナがシューベルトに向いていると思っている。アンナが練習しているのは、シューベルトの歌曲集の中でも特に絶望感が現れているという「冬の旅( Winterreise, op. 89, D. 911 )」の第17曲「村で( 17. Im Dorfe )」である。

【ピアニスト 第05段落】  ブルジョワの家で開かれる演奏会でピアノを弾くため、エリカは母親と一緒に出掛けた。エレベーターに乗り込んだ二人はギリギリでやって来た青年を無視して、エレベーターの扉を閉めた。エレベーターに乗るエリカ親子から、螺旋階段を走って上っていく青年の姿が見える。彼はエリカたちと同じ部屋に向かった。美しい青年ワルター・クレメール(ブノワ・マジメル:『 クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち (2004) CRIMSON RIVERS 2: ANGELS OF THE APOCALYPSE 』『 ピエロの赤い鼻 (2003) EFFROYABLES JARDINS (原題) / STRANGE GARDENS (英題) 』『 愛の彷徨 (仮題) (2003) ERRANCE 』等)は、演奏会を開く夫婦の甥だった。

【ピアニスト 第06段落】  二台置かれたグランド・ピアノで、中年の男のピアニストと連弾で、バッハを見事に演奏するエリカ。ワルターはそんな彼女が気に入ったようだ。演奏後、観客の中で一番大きな拍手を送り、幕間の軽食タイムに早速エリカに声をかける。たまたまエリカの母親は他のお客の男性の会話に捕まっているところで、彼女のガードがなかった。技術系大学生ワルターが、クラシック音楽について知ったようなことを話すのを聞いたエリカは、「お若いのにませた口ぶり、音楽の勉強でも?」とピシャリと言い放つ。しかし、ハンサムでお金持ちetc.といったワルターは女性からキツく言われることがないからか、エリカの反応が新鮮だったようだ。シューマンとシューベルトについて知的に話し、父親が精神病院にいると言うエリカに、ワルターは感心する。偉大な音楽家や精神分析の創始者を輩出したお国柄なのだろうか、音楽と心理学の知識があることは、オーストリアではモテる条件なのかも?

【ピアニスト 第07段落】  次はワルターの演奏だった。実は彼のピアノの腕前は物凄かった。エリカの話の影響で、彼は演目を変更し、シューベルトのピアノ・ソナタ 第 20 番 イ長調 D.959 を演奏した。ワルターの演奏はエリカの琴線に触れたようだ。イザベル・ユペールは、無表情な顔つきの演技にもかかわらず、エリカの心の変化を微妙に表現することができる。このときのエリカの顔も、基本的に無表情なのだが、彼女が快く思っていることが伝わる。フランスの多才な女優イザベル・ユペールは、無感情、無邪気、官能的、コミカル、異常、といった色々な面をもつエリカを、完全に自分のものにしていると思った。

【ピアニスト 第08段落 映画『 ピアニスト 』の主人公演じるイザベル・ユペール】  1955 年 3 月 16 日(うお座)生まれのユペールは、パリのコンセルヴァトワール演劇学校Conservatoire d'Art Dramatique を卒業、クロード・シャブロル Claude Chabrol 監督に多く起用され、『 Violette Noziere (1978)』でカンヌ国際映画祭の女優賞、『 主婦マリーがしたこと (1988) UNE AFFAIRE DE FEMMES 』『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇 (1995) LA CEREMONIE』ではヴェネチア国際映画祭の女優賞と数々の賞に輝くといった、フランスのエリート女優である。フランソワ・オゾン Francois Ozon 監督の『 8人の女たち (2002) 8 FEMMES 』では、カトリーヌ・ドヌーヴ Catherine Deneuve (『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』等に出演)、ファニー・アルダン Fanny Ardant(『 エリザベス (1998) ELIZABETH 』『 星降る夜のリストランテ (2000) LA CENA 』等に出演)、エマニュエル・ベアール Emmanuelle Beartらと共にベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞し、まさにフランスを代表する女優の一人だ。

【ピアニスト 第09段落】  音楽院の先生たちとピアノ三重奏の練習をするエリカに、母親から電話がかかってくる。もちろんエリカは他の演奏者たちの手前、母親からの電話は恥ずかしい。そんな何もかもに母親の監視の目が光る生活に、彼女の息継ぐ時があるのだろうか。

【ピアニスト 第10段落】  街中をどんどん歩くエリカ。人と肩が当たるが、潔癖症の彼女は他人と触れた肩が嫌なようだ。彼女は男性ばかりが集まるポルノ・ショップに入った。小さな彼女が男性たちの間で、ポルノ・ビデオを見る個室の順番を待っているのは、なんか面白い。でも、ゴミ箱から拾ったティッシュを鼻に当ててビデオを見るエリカの姿は異様だ。

【ピアニスト 第11段落】  記念演奏会の練習で、アンナが歌手の男の子の歌に合わせてシューベルトの「冬の旅」第 17 曲を弾いている。大学院はエリカのクラスに入りたいと、その部屋に突然ワルターが入ってきた。エリカは大学院の入試に必要なのは、音楽的才能だけだと彼を突っぱねる。大学院の実技試験には、他の教師たちと共にエリカも試験官として同席していた。ワルターの演奏は素晴らしく、他の教師たちは大絶賛だったが、エリカは複雑な思いで彼らに反対した。一人離れて椅子に座るエリカは、やはりアウトサイダーである。ワルターは見事に大学院入試に合格した。

【ピアニスト 第12段落】  ベートーヴェンを教えている自分の生徒の男の子が、友達と一緒にHな本を立ち読みしているの見たエリカは、彼に普通に挨拶をした。しかし、レッスンではその男の子が汚らわしいかのように辛く当たった。次の授業はワルターの最初の授業だった。ワルターは時刻より早くやって来た。あの演奏会以来二人がボルトとナットのように思えると、技術系らしい口説き文句で、ワルターはエリカに熱い言葉を投げかける。エリカはいつもの厳しい姿勢を崩さず、無視して彼にピアノを弾かせたが、授業の後、こっそり彼の後をつけた。自分の気を引く為に、態々専攻分野を変えて、音楽院にやって来たカッコいい青年のことが気にならないことなんてあり得ないもんね。ワルターの行き先はスケートリンク。ワルターはアイスホッケーに興じるスポーツ青年でもあった。

【ピアニスト 第13段落】  ピアノ三重奏の練習を一緒にしている女性に母親から電話がかかってきてもいいように口裏を合わせておいて、エリカは練習にも出ず、家にも帰らずに、ドライヴイン・シアターへと足を運んだ。映画が始まるベルが鳴り、売店付近に誰もいなくなったとき、エリカは暗いシアターの中に入っていった。止まった車の中で盛り上がっているカップルを覗き込むエリカだが、カップルの男性の方に見つかってしまい、足早に出て行く。家に帰ると、母親がいきなりエリカを打った。一発やり返したエリカに、母は一言告げる。「父さんが死んだよ。」

【ピアニスト 第14段落】  記念演奏会のリハーサルの日。ホールの観客席に座るエリカを見つめるワルターだが、彼にも後方の席の女の子たちからの黄色い視線がある。やっぱりカッコいいからもてるみたい。エリカの生徒のアンナは、緊張の為の下痢で遅れてやって来た。そんな彼女にも優しい言葉をかけず、「度胸がないのね」「情けないわね」といったキツイことばかり言うエリカ。一緒に舞台に立つ歌手の男の子もアンナに怒っている。実際、音楽の世界は私が思う以上に厳しいものなのかもしれないな。

【ピアニスト 第15段落】  舞台に上がったアンナに、ワルターが優しく接しているのを、エリカは見た。アンナはワルターに励まされてピアノの椅子に座り、彼女の演奏中、彼が楽譜のページめくりをしてあげた。そんな二人をエリカは見続けていたが、途中突然ホールを抜け出した。彼女は出演者たちの荷物などが置かれているロッカールームへ行き、アンナの黄色いダッフルコートのポケットに割れたガラスコップの破片を入れた。エリカがホールの観客席に戻ると、舞台で歌われている歌がまるで彼女自身の心の声のように流れていた。「♪おろかな願いに身を蝕まれる…」

【ピアニスト 第16段落】  リハーサル終了後、劈(つんざ)くようなアンナの叫び声。アンナが右手から血を流して立っている。ワルターと話をしていたエリカは、「血を見るのは苦手、助けるのよ、男らしく」と彼に言って、走り去った。エリカの言葉と行動で、ワルターはこれが彼女の嫉妬の仕業であることを知り、彼女を追った。

【ピアニスト 第17段落】  トイレに閉じこもっているエリカを引き出す為、ワルターはトイレによじ登り、上から彼女に声をかけた。案の定すぐにトイレから出てきたエリカをワルターは抱きしめ、キスをした。しかし、性向がヘンなエリカとのラブシーンはなかなかうまく行かない。そんな彼女にワルターは「君の態度は病的だ、ひどすぎる」と言ったりするが、最後にはエリカも自分を好きであったことに満足してスポーツマンらしくジョギングをして帰って行った。

【ピアニスト 第18段落】  教室でアンナの母親と話をするエリカの顔には化粧が施され、服の色も暖色系になったようである。ピアニストを目指す娘の右手に傷がついたことを悲観する母親は「全てを犠牲にしてきたのに」とエリカに憤懣やる方ない気持ちを話すが、フランス語で nous (私たち)を主語にして話していた母親に、エリカは「(全てを犠牲にしてきたのは)アンナがでしょ」と正す。エリカはアンナ母娘に嘗ての自分と母親を見ていたのだ。不器量な娘が頼れるのはピアノの才能だけだと話し、常日頃から娘にピアノへの全力投球を望んでいたアンナの母親は、エリカの母親とそっくりだった。

【ピアニスト 第19段落】  もちろんエリカが自分の教え子にとんでもない事をやらかしたのは、ワルターが原因だったかもしれないが、別にピアニストとしての嫉妬もあったのではないかと思う。エリカがコンサート・ピアニストになっていないのは、才能がなかったからかもしれないし、母親の夢をくじくという復讐だったのかもしれない。そこら辺は不明だが、自分と同じようにシューベルトに向いている、若く才能あるアンナに、先を越される不安があったのかもと思った。エリカの母親が一緒に眠るベッドで、教え子に先を越されてはいけないと言っていたことは、彼女の胸に深く突き刺さっていたに違いない。記念演奏会でのアンナの代役はエリカ自身が務めることになった。

【ピアニスト 第20段落】  二人の気持ちが一応通じるようになったわけだから、個人レッスンでワルターはエリカに禁じられていたシューベルトを練習してもいいようになっていた。歌曲王シューベルトがエリカにとって特別なのはなぜだろう。中学の音楽の授業で「魔王」を習い、恐ろしげなゲーテの詞にゾゾッとしたくらいしか、シューベルトについて前知識の無い私。はっきり言ってわからないが、一応頑張って考察してみたケド…。

【ピアニスト 第21段落 映画『 ピアニスト 』、シューベルトについて@】  『 眺めのいい部屋 (1986) A ROOM WITH A VIEW 』を観て、シューベルトって繊細で論理的な音楽なのかなァと勝手に思っていた。実際、シューベルトの歌曲は、当然音楽的に優れているだけではなく、文学的にも優れていて、理性と感情にバランスが取れているそうだ。いつも命令口調のエリカは、命令=論理の世界がしっくりくるというか、感情に押し流されることができない環境で育ったからか、シューベルトの論理的にバランスの取れた世界がいいのかもしれない。

【ピアニスト 第22段落 映画『 ピアニスト 』、シューベルトについてA】  エリカがシューベルトに共感するような二人の共通事項は、中流階級出身であること、小さくて容姿が醜かったこと、一生独身だったことくらいしか見当たらない。内気であったそうだが、エリカとは違ってシューベルトは、シューベルティアーデ schubertiade という音楽を楽しむグループをつくるほど、友人が多かった。そんな友人達が職にあぶれていたシューベルトの作家活動を支えたそうだ。

【ピアニスト 第23段落 映画『 ピアニスト 』、シューベルト歌曲集「冬の旅」@】  シューベルトの初期の作品は幸せなものが多いらしいが、晩年は憂鬱なものが多いそうだ。彼は1823年が終わる頃には、自分の命を奪うことになる、性感染症(死因については腸チフスや水銀中毒など諸説ある)の影響を感じ、「私の平安は去った…」と語っている。映画に出てきた彼の曲の一つ、「冬の旅」は、死の前年の 1827 年に完成されたもので、恋愛に失望した青年が、厳しい冬の景観の中をさまようという内容のウィルヘルム・ミュラー Wilhelm Muller の詩がついた 24 曲の連作歌曲集だ。

【ピアニスト 第24段落 映画『 ピアニスト 』、シューベルト歌曲集「冬の旅」A】  この作品を聞いた、シューベルトの友人のヨセフ・フォン・シュパウン Joseph Von Spaun が次のように語っている。「私の質問に、どうしたことだろうか、シューベルトは『すぐにわかるようになる』としか答えなかった。ある日彼は『今晩ショーバー(フランツ・フォン・ショーバー Franz von Schober :シューベルトの友人)の家に来てよ。僕は君たちの為に一連のひどく悲しい歌曲を歌うよ。僕はそれらについて君たち全員が思うことをとても知りたい。この連作歌曲集は他の作品以上に僕に影響を与えたんだ。』と僕に言った。彼は感動して満たされた声で『冬の旅』を全部歌った。僕たちは歌の憂鬱なムードに驚き、終いにショーバーは気に入った曲は『菩提樹』(第5曲 Der Lindenbaum )しかないと言ったんだ。シューベルトは『僕の他のどの作品よりもこれらの歌曲が好きだ。君たちもこれらの歌が好きになるよ。』って言った。彼は正しかったよ。というのは、僕たちはすぐに、フォーグル(ヨハン・ミヒャエル・フォーグル Johann Michael Vogl :シューベルトと一緒にコンサート・ツアーに出掛けるなどした歌手)によってとても美しく歌われた、これらの悲しい歌の虜になったんだもの。」

【ピアニスト 第25段落 映画『 ピアニスト 』、シューベルト歌曲集「冬の旅」B】  エリカがアンナに教授していた第 17 曲「 Im Dorfe (村にて)」の歌詞は以下の通り。訳は私がしたので、変な感じで、申し訳ないです。
Es bellen die Hunde, es rasseln die Ketten;(犬が吠える、鎖がガラガラ音を立てる)
Es schlafen die Menschen in ihren Betten,(村人たちはベッドで眠っている)
Traumen sich manches, was sie nicht haben,(自分たちには無いものを夢見て)
Tun sich im Guten und Argen erlaben;(良くも悪くも元気になる)

Und morgen fruh ist alles zerflossen.(そして朝のうちに全ては消えてしまうだろう)
Je nun, sie haben ihr Teil genossen(ああ、夢の中で彼らは喜びを分かち合ったのだ)
Und hoffen, was sie noch ubrig liesen,(そして彼らが失った希望も)
Doch wieder zu finden auf ihren Kissen.(また枕の上でそれらを見つけるのだろう)

Bellt mich nur fort, ihr wachen Hunde,(吠える番犬よ、僕を追い出せ)
Last mich nicht ruh'n in der Schlummerstunde !(眠りの時間も僕を休ませるな)
Ich bin zu Ende mit allen Traumen.(僕はすべての夢を見終えてしまった)
Was will ich unter den Schlafern saumen ?(どうして眠る人たちのもとに留まる必要があろうか)

【ピアニスト 第26段落 映画『 ピアニスト 』、シューベルト歌曲集「冬の旅」C】  絶望の中で自己喪失の主人公の青年が、無常を知らずに普通に暮らす人々の村にたどり着いた場面。そこの番犬に警戒されることで、無邪気に欺瞞の中に生きる人生から疎外を感じている青年は、当て所なく、さまよい続けるのだ。

【ピアニスト 第27段落 映画『 ピアニスト 』、シューベルト歌曲集「冬の旅」D】  19 世紀に自分を性病だと思っている、醜い小男シューベルトは、結婚して家庭を築くこともなく( 1818 年のハンガリー貴族の娘との悲恋はどこまで本当か分からないが映画にもなっている。また、シューベルトはホモだという説もある)、仕事で大成功を収めたわけでもなかった(世の中から受け入れられた頃に、病に冒され始める)、短い人生の終焉を病の苦しさの中で感じている。「冬の旅」の青年の無常観は、そんなシューベルトの無常観でもあるのだろうか。 38 歳にして未だに母親の支配下にあるエリカも、彼らと同じように社会のアウトサイダーである。そういう理由もあって、シューベルトに傾倒していたのかなぁ?しかし、シューベルトは「冬の旅」の最後の歌曲「ライアー回し( Der Leiermann )」から察するに、そんな無常な人生を受け入れたような気がする。死の概念に取り付かれていたシューベルトは、死後に何かより良いものと出会えると信じていたそうだ。では、エリカはどうか?彼女は人生に救いを見出せたのだろうか?

【ピアニスト 第28段落】  ピアノを教えているエリカに率直に自分の気持ちを話すワルターの態度に、他人から親愛の情を示されたことのない彼女は、緊張してしまい、咳き込んでしまう。エリカはワルターに自分の望みを書いた手紙を渡し、今読まずに一人のときに読んでと念押しする。

【ピアニスト 第29段落】  赤い帽子を被ったエリカが、自宅アパートの階段を上がっている。あのトイレの日以来、エリカの服装には明らかな変化が見られるが、この帽子はヘンだ。長年他人と親密な関係を築いたことのない、家庭環境からトラウマをもった女性に、初めて愛してくれようとする人が現れて、彼女もぎこちなく愛情を表そうとするところは、滑稽でもある。エリカを追ってワルターがやって来た。自宅を目の前にして、エリカはワルターを帰そうとするが、彼女が玄関の扉を開けた瞬間にワルターは彼女の後ろに立ち、あたかも招かれているように振舞った。そして、今まで一度も来たことのない娘の男友達の夜遅くの訪問に動揺する母親を尻目に、エリカと一緒に彼女の部屋に入っていった。

【ピアニスト 第30段落】  エリカたちは母親が入ってこないように、部屋の扉の前にタンスを置いた。迫るワルターに、エリカは先に手紙を読んでと主張する。ワルターは気にせず先に進もうとするが、エリカが頑なに拒むので、仕方なく鞄にしまっていた手紙を出して読むことにした。手紙にはエリカが長年にわたって望んでいたマゾヒスティックな性行為が書かれていた。ワルターは知的な彼女の顔の後ろに隠されていた真実を知って、困惑する。そんな彼にベッドの下に隠してあるそういう道具を見せたり、洋服ダンスを開けてワルターに好きな服を選んでというエリカは、もう高圧的な女性ではない。エリカを愛していたが、今は嫌悪感だけだと言って、ワルターは部屋を出て行った。

【ピアニスト 第31段落】  いつものように母と一緒に眠るエリカ。「これが全てを捧げた結果」と今夜のエリカの行動を非難する母親に、エリカは「ママ、愛しているわ」と突然襲い掛かるが、すぐに泣き崩れる。そんな娘に完全に狂っていると言い、「生徒の代わりに弾くとしても全力投球で」とピアノのことを話し出す母親。エリカがヘンなのは、ピアノ以外を認めない母親のせいなのだ。

【ピアニスト 第32段落】  翌日、エリカはフェミニンな花柄のワンピースを着て、ワルターがアイスホッケーをしているスケートリンクを訪ねた。更衣室で仲間たちと一緒に着替えようとしているワルターを呼んで、倉庫のような部屋で二人きりになると、エリカは手紙のことを謝り、「許して」と体を横たえて誘った。エリカの衝撃の事実があっても、ワルターは彼女を愛しているようで、それに応える。ところが、二人の気持ちが一番高揚する瞬間に、エリカは嘔吐してしまう。彼女は潔癖症なんだから仕方がないのだけど、それでもワルターを失いたくないエリカは口をゆすいで迫る。しかし、口が臭いと拒まれ、彼女は寒い外に出て行った。

【ピアニスト 第33段落】  夜、ワルターがエリカの家にやって来た。鍵が掛けられたドアをこじ開けようとする勢いだ。急いでドアを開けたエリカに、「…ヘンタイを人にうつしたいか?」と息巻くワルター。彼は警察に電話をかけようとするエリカの母親を部屋に閉じ込め、エリカの手紙が要求していたことを少し実行する。殴られ、蹴られたエリカは鼻血を寝巻きでおさえる。しかし、母親をそばに置いて、そうされることを願っていたはずのエリカなのに、彼女はちっとも嬉しそうではない。初めての経験にも、呆然としたままだ。そんなエリカに「愛に傷ついても、死ぬことはない」とワルターは言い残して帰っていった。

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◆ここからは、結末まで書いていますので、ストーリー全体が分ります。御注意下さい。
 ATTN: This review reveals the movie content. Please don't say that I didn't say !


【ピアニスト 第34段落】  記念演奏会の日、エリカは台所から持ってきた長いナイフを黒いハンドバックに忍ばせていた。勿論いつものように母親と一緒のエリカは、エントランス・ホールで教え子の青年やアンナ母娘と出会う。アンナの手の傷はもう回復したようで、「アンナが是非先生のシューベルトを聞きたいと言って」と話す彼女の母親の顔も明るい。しかし、エリカは罪悪感でアンナと握手することができなかった。エリカの母親は事情を詳しく知らないので、「(エリカの)晴れ舞台ですね」と言うアンナの母親に対して、生徒の代わりに演奏するだけだと謙遜したつもりの自己中な発言をする。その実、娘と二人きりのときには、誰が演奏を見ているかもしれないと、エリカに発破をかけるのだ。母親はアンナたちと一緒に、先に劇場内へと階段を上っていった。

【ピアニスト 第35段落】  エリカはエントランス・ホールにそのまま残り、ワルターがやって来るのを待っている。開演時間が近づき、訪れる人の数も少なくなってきた。もしかしたら、この大切な日にワルターは来てくれないのかもしれない、そう思った頃、彼がやって来た。エリカに挨拶をするワルターの伯母夫婦の後に、「先生、演奏を楽しみにしています」と、ワルターが綺麗な女の子を伴ってエリカの前を走っていった。誰もいなくなったホールに取り残されたエリカは、バッグからナイフを取り出し、自分の胸をついた。シルクのブラウスに血がにじみ出てきたのを、本能的に手で隠し、エリカは劇場を出て行った。

【ピアニスト 第36段落】  エンドロールには音がない。エリカは壊れてしまったのだろうか?

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【ピアニスト 第37段落 映画『 ピアニスト 』の感想@】  「ぼくはあなたがどんなに哀しい秘密を持っていても、愛しています」というこの映画のコピーで、一途に年増の女性を想う青年が描かれているのかと思ったが、実際観てみてそうではないと思った。ワルターの中では、エリカへの気持ちは最大限だったかもしれないけど、自分に関心のある女の子たちの視線に微笑んだり、スケートリンクでフィギュアの女の子たちに声をかけたり、ラストシーンでカノジョらしき女の子を伴っていたりと、全てに恵まれて生まれついた青年は愛に貪欲だ。エリカに「遊ぶならお互い同じルールで」と言っていることから、彼にとってエリカとの情事は、数ある恋愛の中の変り種に過ぎないのだと思う。エリカの手紙を実行したのは、ちょっとした好奇心だったのだろう。そしてエリカが彼に醜いシューベルトの気持ちがわからないと言ったように、彼には弱者の本当の悲しさが理解できない。それは最後の夜に彼がエリカに言った言葉に象徴されている。エリカは本当に死んでしまうかもしれないのに。

【ピアニスト 第38段落 映画『 ピアニスト 』の感想A】  幼い頃から圧制的な母親のもとで、ピアノ漬けで暮らしてきたエリカには、自分を取り戻す暇がなかった。思春期に訪れるはずの性の目覚めも、彼女は母親によってピアノ以外の生きる権利を奪われていたので、ゆがんだ形でしか育んでいくことしかできなかったのかもしれない。しかし、そんな自分に埋め合わせをしなければ、本当におかしくなってしまう。原作者のエルフリーデ・イェリネクはインタヴューで答えている。「…隠されたセクシュアリティは覗き趣味の中に現れました。人生や欲望を相伴うことができない女性。見る権利でさえ男性の権利です。女性はいつも見られるものです。決して見る側ではありません。その点において、それを精神分析的に表現する為に、見るという男性の権利を盗み、それで彼女の人生を補っている男根主義の女性を、ここで扱っているのです。」

【ピアニスト 第39段落 映画『 ピアニスト 』の感想B】  性に対する関心をゆがめられたまま育ったエリカが、ワルターを通して初めてその欲求を満たしたとき、彼女は自分が狂っていないことを知った。だって、ワルターの暴行を、彼女は喜んで迎えなかったから。たぶん思うに、このお陰できっと彼女は自分を取り戻すことができたのだろう。しかし、それは自己喪失のほんの一部に過ぎない。なぜなら今まで母親によって自己の存在を成り立たせていたエリカが、その対象をワルターに移しただけに過ぎないから。その結末が、悲惨なラストシーンだと思う。

【ピアニスト 第40段落 映画『 ピアニスト 』の感想C】  自分は楽天家だと主張する、ハネケ監督に「ウソだろ〜」と言いたくなるほど、映画は後味が悪くて、暗かった(そういうのが監督の作風みたい)けど、ギリシャ神話の若者のような青年を演じたブノワ・マジメルに心浮き立った。『 年下のひと (1999) LES ENAFANTS DU SIECLE 』で共演したジュリエット・ビノシュ Juliette Binoche (『 イングリッシュ・ペイシェント (1996) THE ENGLISH PATIENT 』『 ショコラ (2000) CHOCOLAT 』『 シェフと素顔と、おいしい時間 (2002) DECALAGE HORAIRE (原題) / JET LAG (英題) 』等に出演)との間に一女( 2000 年生まれで、Hannahちゃんと言うらしい)をもうけ、2003 年現在も交際中。映画のように年上が好きみたい。本作への出演も、ハネケ監督の『 コード・アンノウン (2001) Code Unknown Incomplete Tales of Several Journeys 』(カンヌ国際映画祭でエキュメニック賞を受賞)でヒロインだったジュリエット・ビノシュのお陰でもあるようだ。世界的な大女優がパートナーだと、色々イイことがあるもんだ。今後の活躍も期待してマス。

以上。
<もっと詳しく>からスペースを含まず12867文字/文責:幸田幸

参考資料:「映画の森てんこ森」映画タイトル集
       http://www.coda21.net/eiga_titles/index.htm
      IMDb
      allcinema ONLINE
      Nostalgia.com
      CinemaClock.com
      AlloCine : Cinema
      Yahoo!
      http://www.btinternet.com/~J.Benton/winter_journey.htm
      Elfriede Jelinek Homepage
      http://www.gopera.com/winterreise/midi/index.html
      The Secrets behind Franz Schubert
      The Schubert Institute (UK)
      「ピアニスト」日本語版・英語版オフィシャルサイト
      公式サイト(仏語版)
       http://www.mk2.com/Pianiste/home.html
■映画『 ピアニスト LA PIANISTE / THE PIANO TEACHER 』の更新記録
2003/01/26新規: ファイル作成
2004/05/02更新: ◆書式とテキスト一部手直し
2004/07/09更新: ◆テキストとリンク一部およびファイル書式
2004/11/24更新: ◆追記
2005/03/11更新: ◆一部テキスト追記と書式変更
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幸田 幸
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