ダンサー・イン・ザ・ダーク
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ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000)
DANCER IN THE DARK
 映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』をレヴュー紹介します。

 映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』を以下に目次別に紹介する。
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の解説及びポスター、予告編
 ネタばれをお好みでない方はこの解説をご覧下さい。
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の映画データ
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』のトリビア
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』のスタッフとキャスト
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の<もっと詳しく>
 <もっと詳しく>は映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の「テキストによる映画の再現」レヴュー(あらすじとネタばれ)です。※ご注意:映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』の内容やネタばれがお好みでない方は読まないで下さい。
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』 「ゴールド・ハート Gold Heart 」のおとぎ話
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とラース・フォン・トリアー監督
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』のストーリー
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』チェコスロヴァキア出身の主人公セルマ
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』出演のピーター・ストーメア
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の結末
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の感想(ネタばれご注意)
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とドグマ 95
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の更新記録

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幸の鑑賞評価: 8つ星 
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』の解説及びポスター、予告編
ダンサー・イン・ザ・ダーク
ダンサー・イン・ザ・ダーク

Links:  Official Web Site
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の解説

 映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』は、2000年、カンヌ国際映画祭のパルム・ドールに輝いた、デンマーク出身ラース・フォン・トリアー監督(『 ドッグヴィル (2003) DOGVILLE 』等)のミュージカル。アイスランドの歌姫ビョークも女優賞を獲得。主人公セルマ(ビョーク)曰く、ミュージカルでは悲しいことは起こらないことが多いが、この『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』はそれを逆手に取って、悲しすぎるストーリーだ。(因みに監督は『 ウエスト・サイド物語 (1961) WEST SIDE STORY 』がお気に入り。)ノミネート曲「 I've Seen It All 」のパフォーマンスのため、白鳥のドレスでアカデミー賞会場に現れたビョークの姿のように、好き嫌いが大きく分かれる映画だ。『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』での、手持ちカメラの揺れる映像は『 ロゼッタ (1999) ROSETTA 』よりもましだが、ちょっと酔う?
 『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』のストーリー...セルマは、失明の危機にある、貧しいアメリカ移民のシングル・マザー。彼女は辛いことがあると、日常の音に耳を傾け、そこから大好きなミュージカルの空想の世界へと入り込んでいく。純粋な心の彼女は、周りの人々の心を温かくする。目の悪い彼女が、必死になって働いているのは、故郷チェコスロヴァキアにいる父に送金するためだと、周囲には偽っているのだが‥。
●スチルはnostalgia.com、予告編はcinemaclock.comより許諾をえて使用しています。
Filmography links and data courtesy of The Internet Movie Database & Nostalgia.com.
Filmography links and data courtesy of CinemaClock Canada Inc.
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■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』の映画データ
 上映時間:140分
 製作国:デンマーク
 公開情報:アスミック・エース
 デンマーク初公開年月:2000年9月8日
 日本初公開年月:2000年12月23日
 ジャンル:ドラマ/音楽
 《米国コピーTagline》You don't need eyes to see.
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■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』のトリビア
 「映画の森てんこ森」内にあるカンヌ国際映画祭パルムドール作品
タクシードライバー (1976) TAXI DRIVER
ピアノ・レッスン (1993) THE PIANO
ロゼッタ (1999) ROSETTA
ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK
息子の部屋 (2001) LA STANZA DEL FIGLIO (伊題) / THE SON'S ROOM (英題)
戦場のピアニスト (2002) THE PIANIST
エレファント (2003) ELEPHANT
華氏911 (2004) FAHRENHEIT 9/11 』 (2005/03/13 現在)
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【『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』のスタッフとキャスト】
監督: ラース・フォン・トリアー Lars von Trier
脚本: ラース・フォン・トリアー Lars von Trier
撮影: ロビー・ミューラー Robby Muller
振付: ヴィンセント・パターソン Vincent Paterson
音楽: ビョーク Bjork

出演: ビョーク Bjork セルマ・イェスコヴァ
    カトリーヌ・ドヌーヴ Catherine Deneuve キャシー
    デヴィッド・モース David Morse ビル
    ピーター・ストーメア Peter Stormare ジェフ
    ジャン=マルク・バール Jean-Marc Barr ノーマン 
    ウド・キア Udo Kier Porkorny医師
    ステラン・スカルスガルド Stellan Skarsgard 医師
    ヴラディカ・コスティック Vladica Kostic ジーン
    カーラ・セイモア Cara Seymour リンダ
    ジョエル・グレイ Joel Grey オルドリッチ・ノヴィ
    ヴィンセント・パターソン サミュエル
    ジェリコ・イヴァネク Zeljko Ivanek 地方検事
    シオバン・ファロン Siobhan Fallon ブレンダ

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ストーリー展開の前知識やネタばれがお好みでない方は、読まないで下さい。
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の「テキストによる映画の再現」レヴュー

 まず、本作『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』の「テキストによる映画の再現」レヴューに入る前に、ラース・フォン・トリアー監督を喚起し、『 奇跡の海 (1996) BREAKING THE WAVES 』『 イディオッツ (1998) THE IDIOTS 』『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』の三部作を製作することになったという、「 Gold Heart 」のおとぎ話を私の稚拙な訳でご紹介しマス。子供の頃、父親がバカバカしいと思っていたにも拘わらず、監督は何度も何度もこの物語を聞いたそうだ。

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【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』 「ゴールド・ハート Gold Heart 」のおとぎ話】

 大きな森の奥深く、小さな淋しいお家がありました。そのお家には小さな女の子が住んでいました。その女の子はとても可愛くて優しかったので、「 Goldheart 」と呼ばれていました。

 でも、 Goldheart は、とても貧しくて、世界で一人ぼっちでした。彼女にはお母さんもお父さんもいません。暖炉の火は消えかけ、食べ物は小さなクッキーしか残っていません。

 だから Goldheart は、小さな家を出て、さ迷い始めました。片手にちっちゃなクッキー、もう一方の手に杖を持って、彼女は広い森の中をトットと歩いていきました。

 暫くして、彼女はひどくお腹のすいているお婆さんと出会いました。 Goldheart はためらわずにおばあさんに自分のクッキーをあげました。「クッキーをどうぞ、私は大丈夫よ」と、彼女は言いました。

 それから、さ迷い人がやってきました。彼はとても年老いていて、とても疲れていました。「おじいさん、何でもいいから、私の杖によりかかってちょうだい、私は大丈夫なの」と Goldheart は言いました。

 夜になり、 Goldheart は疲れたので、森の地面に横になって眠りました。「ちょっぴり淋しいわ。でも、夕べのお祈りをしましょう。そうしたら私は大丈夫。」と彼女は言いました。

 次の日、さ迷い続けた Goldheart は、貧しい女の子に出会いました。その女の子の耳は冷たくて感覚を失っていました。だから Goldheart はその女の子に自分の帽子をあげました。「私の帽子をもらってちょうだい、私は大丈夫よ」と、彼女は言いました。

 橋の上で Goldheart はぼろをまとった男の子に出会いました。彼はセーターを着ていなかったので、凍えていました。だから Goldheart はセーターを脱いで、彼にあげました。「私のセーターをどうぞ、私は大丈夫」と彼女は言いました。

  Goldheart は、ほとんどあげるものがなくなってしまいました。彼女はとっても貧しくなってしまいました。でもある夜、あることが起こりました。星が空から落ちてきて、 Goldheart に降り注ぎました。すると突然その星がお金に変わってしまったのです。彼女の顔にキラキラとした微笑が浮かびました。「私は大丈夫」と彼女は言いました。

 そしてある日ハンサムな王子様が現れ、 Goldheart に結婚を申し込みました。「僕は君にセーターをもらった、橋の上の男の子です。君の心は純粋な金でできているね。だから、僕のプリンセスになって。」Goldheart は答えました「私のハートをどうぞ、私は大丈夫よ」。

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【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とラース・フォン・トリアー監督】

【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とラース・フォン・トリアー監督 第01段落】  『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』は、おとぎ話「 Gold Heart 」のような無償の愛を描くと同時に、痛烈に大国批判している映画でもあると思った。現在の唯一の超大国はアメリカなので、アメリカ批判の映画にも見えるだろう。 1990 年代の映画シーンで国際的にブレイクした最も例外的な映画製作者のうちの一人である、デンマーク出身のラース・フォン・トリアー監督は、もしかしたら嫌米思考の人なのかもしれない。 1956 年 4 月 30 日生まれ(牡牛座)のフォン・トリアー監督は、急進的な裸体主義者の共産党員である両親によって育てられ、神経過敏な左翼の映画愛好家の青年に成長した。監督自身は子供の頃TVでジーン・ケリーのアメリカ製ミュージカルに親しんだそうだが、両親はミュージカルをアメリカの廃物だと言っていたらしい。生まれから既にアメリカ嫌いになる要素たっぷりである。本作で主人公セルマの「分配はいいこと」と共産主義を擁護する発言があるが、これは監督自身の思想でもあるのだろうか。しかし、監督が学生のときに、自分の名前に貴族的な" von(フォン) "を付け加えたのはなぜだろう?

【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とラース・フォン・トリアー監督 第02段落】  アメリカの描写のために、本作を芸術的な醜さだとか感情的な暴行だと酷評するアメリカ人批評家もいたそうだ。この映画が嫌いなアメリカ人にとっては、飛行機嫌いのフォン・トリアー監督が一度もアメリカに来たことがないというのが、気に触るようである。(実際に監督の飛行機嫌いは有名で、本作の舞台はアメリカなのだが撮影はスウェーデンで行われたとか、カンヌ国際映画祭にも頑張って車で行ったというエピソードがある。)監督曰く、この映画の舞台をアメリカにしたのは、ミュージカルがアメリカから渡ってきたものだからであり、アメリカが自分の飛行機嫌いの為にこれからも恐らく訪れることがないであろう、監督にとっての架空の国だからであるそうだ。うーん、この表現ってやっぱり好きな国には用いないだろうなぁ。

【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とラース・フォン・トリアー監督 第03段落】  一方で、ミュージカルと手持ちカメラのドキュメンタリー形式という大胆なスタイルや、ラストの本能的な衝撃をちゃんと賞賛しているアメリカ人批評家も多く存在している。例えば「 Yahoo! Movies 」でのこの映画の User Rating は、星5のうち 4.3 ポイント獲得している。でもやっぱり、そのページの記述には、そこはかとなく監督への嫌味が感じられるかなぁ?「英語で映画を製作することで、フォン・トリアーが広くより多くの観衆を獲得した時に、彼の成功のお蔭で、すぐにスカンジナヴィアの映画は復活し国際的に脚光を浴びることになった。(にも拘わらず)彼が一度も"ハリウッドに行く"ことがないのは、強烈な飛行機嫌いのせいなのは確かだ」これは直訳であるが、関西弁嫌味風に解釈すれば、「グローバルな言語の英語、つまりアメリカ人の言語を使ったから、マイナーなスカンジナヴィア半島の映画でも流行って、儲けたんやろ。せやのに、飛行機嫌いやなんてゆ(言)うて、アメリカにこ(来)うへんやなんて、おかしいんとちゃうん?」なんちゃって!

【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とラース・フォン・トリアー監督 第04段落】  母親の弟がドキュメンタリー映画作家ということもあってか、監督は十代の初めの頃には8ミリカメラを与えられてから、映画作りをして過ごしたそうだ。そして、コペンハーゲンの映画学校を卒業した翌年の 1984 年、 28 歳の時に、低予算で作った『 エレメント・オブ・クライム (1984) THE ELEMENT OF CRIME 』でカンヌ国際映画祭のフランス映画高等技術委員会賞を受賞する。映画監督としての華々しい経歴はスゴイし、これ以後もカンヌでの受賞歴は続くのだ。『 ヨーロッパ (1991) EUROPA 』では審査員賞とまたもフランス映画高等技術委員会賞、『 奇跡の海 (1996) BREAKING THE WAVES 』では審査員特別賞、そして本作のパルム・ドールである。うーん、凄すぎる。

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【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』のストーリー】

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第01段落】   1964 年のアメリカの田舎町。分厚いメガネをかけ、黒髪がボサボサの小柄な女性セルマ・イェスコヴァ(ビョーク)はチェコスロヴァキア( 1993 年 1 月 1 日にチェコとスロヴァキアに分離。セルマがチェコ人かスロヴァキア人かは私にはわからなかった。)からの移民で、貧しい生活の中で必死に生きている女性だ。天衣無縫で純粋な彼女の性格は日常の生活の苦しさに歪むことはなく、逆に周りの人の心を穏やかにする。それは彼女の心にミュージカルがあるからかもしれない。辛い時や悲しい時はいつも、彼女の心は空想の世界に飛んで行き、彼女だけのミュージカルの中で人々と踊り、歌うのだ。町の公民館のような所の舞台で、年配の女友達キャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ:『 リトル・トム (仮題) (2001) LE PETIT POUCET (原題) / TOM THUMB (英題) 』『 8人の女たち (2002) 8 FEMMES (原題) / 8 WOMEN (英題) 』『 永遠の語らい (2003) A TALKING PICTURE 』等)達と一緒に『 サウンド・オブ・ミュージック (1964) THE SOUND OF MUSIC 』の稽古をしている彼女は、本当に楽しそうだ。セルマの役は主人公のマリアである。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第02段落】   しかし、彼女の障害は貧困だけではない。セルマはひどく目が悪かった。工場で働くため、セルマはキャシーと一緒に目の検査にやって来た。検査の表に書かれたアルファベットを予め暗記しているセルマは、実際は殆ど見えていないのに、医師(ステラン・スカルスガルド)の質問に答えていく。セルマは検査に合格することができた。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第03段落】   ミュージカルの台本を見ながら、プレス板に金属の板を入れていくセルマ。そんな彼女にビル(デヴィッド・モース:『 グリーンマイル (1999) THE GREEN MILE 』『 交渉人 (1998) THE NEGOTIATOR 』等に出演)とジーン(ヴラディカ・コスティック)が来たという知らせが入る。それはセルマにとっていいことではなかった。ジーンはシングル・マザーであるセルマの可愛い一人息子。ビルは、彼の敷地内にあるトレーラーをセルマに貸してくれている、町の警察官だ。ビルが学校をサボっているジーンをセルマのところに連れて来てくれたのだ。セルマはジーンの頬を打って、学校に行くように怒る。ビルはジーンを庇うが、セルマの行為は愛するジーンの幸せを願うからこそである。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第04段落】   セルマは工場での仕事のほかに、カード作りの内職もしている。目の悪い、貧しい移民のシングル・マザーである彼女がそんなに仕事に精を出すのは、故国の父オルドリッチ・ノヴィに送金するために貯金をしているからということになっているが…。

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【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第05段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマ@】   セルマがチェコスロヴァキア出身であるということも、この映画のメッセージを含んでいるのではと思う。ここで第一次世界大戦時からのチェコとスロヴァキアの国の歴史を簡単に振り返ってみたいと思う。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第06段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマA】   1918 年に第一次世界大戦が終結し、オーストリアのハプスブルグ帝国が崩壊すると、チェコとスロヴァキアの独立国家建設への道が開けた。それは、大戦の間に行われた、未来のチェコスロヴァキア大統領であるT.G.マサリクとE.ベネシュの急進論主義な政治活動のお蔭でもあるだろう。民族的に異なる二つの国チェコとスロヴァキアが合併してできたチェコスロヴァキア共和国は、世界の最も発展した国の一つとなり、ヨーロッパ世界で初めて、ユダヤ人に普通市民権と普通選挙権を与えた国となった。ユダヤ系デンマーク人の父を持つフォン・トリアー監督が" Gold Heart "を持つセルマをこの国の出身者にしたのは、そういうバックグラウンドがあることも考えられる。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第07段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマB】   20 年間の民主主義と繁栄の時代は、ヒトラーのドイツによる攻撃で終了した。ミュンヘン会談とその結果起こった 1939 年 3 月のドイツの占領により、スロヴァキアの独立は終わった。第二次世界大戦後、独立を回復した共和国は、旧ソ連を中心とする勢力の一部となった。 1948 年 2 月、共産主義による乗っ取りで、制限された民主主義の時代は終わった。全ての私有財産は没収され、政治的権利や人権が抑圧された。共産主義を変革し教化し、また、旧ソ連との結びつきを弱めようとした(プラハの春)が、 1968 年に旧ソ連軍の侵入により失敗した。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第08段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマC】   徐々に共産主義政権と旧ソ連の帝国が崩壊していくにつれ、チェコスロヴァキアの人々の抵抗やデモは大きくなり、ついに 1989 年 11 月、共産主義政権は転覆した。この革命は、流血を伴わなかったことから「ビロード革命」と呼ばれている。共和国の大統領選挙でヴァーツラフ・ハヴェルが選ばれたことで、その革命は確かなものになった。 1993 年 1 月 1 日にチェコスロヴァキアは完全に分離し、それぞれ独立した共和国としてチェコとスロヴァキアが築かれた。それは平和的に行われた。因みに、人というのは寒い所に住むにはかなりのストレスがかかるので、寒い国の社会主義は成功しがたいのではないかと思う。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第09段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマD】   以上より、チェコスロヴァキアが大国の意向で翻弄されてきた国であることが分かるだろう。まずはミュンヘン会談。ドイツとの戦争を回避しようとしたイギリスとフランスが、ドイツの要求にあっさりと屈したため、チェコスロヴァキアはズテーテン地方をドイツに割譲することになった。しかし、その大国の判断が誤っていたことは、すぐに証明される。そして第二次世界大戦後は旧ソ連による圧服。プラハの春はワルシャワ条約機構軍の侵攻により抑圧されてしまった。期待していた西側諸国の介入はなく、改革の動きは封じ込められてしまった。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第10段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマE】   しかし、東欧の小国であったこの国は、優れた国民性を持っていると思う。音楽の授業で習った『わが祖国』のスメタナ、『新世界より』のドヴォルザーク、文学では『変身』のカフカ(アメリカに行くことなくアメリカを描いたフォン・トリアー監督は、自分と同じようにして長編小説『アメリカ』を書いたカフカのことが念頭にあったようだ)やリルケ、アールヌーヴォー美学の形成に決定的役割を演じた画家ミュシャ(ムハ)などの存在が、そのことを証明している。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第11段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマF】   また、経済においても、チェコスロヴァキアとして独立した第一次大戦後は、オーストリア・ハンガリー帝国の工業資産の4分の3を継承し、世界有数の工業国であった。そして、分離後のチェコでは、 1994 年には経済成長率がプラスに転じる等順調な成長を遂げる一方、低い失業率・安定したインフレ率を維持し、「チェコ経済の奇跡」とまで呼ばれるに至った。一時深刻な状況に陥るが、 2000 年には 2.9 %プラス成長を達成している。一方スロヴァキア経済も、チェコに依存した経済構造とコメコン体制を前提とした産業構造というハンデがあったにも拘らず、特に 1994 年〜 1998 年までは高い経済成長を持続した。 2000 年も 2.2 %のプラス成長を続ける等、スロヴァキア経済は穏やかながら立ち直りつつある。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第12段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマG】   「百塔の街」とか「中世の宝石」と呼ばれ、世界一美しい街の一つであるチェコの首都プラハは、近年ハリウッド映画の撮影が殺到し、その経済効果で潤っているそうだ。それは、美しい街並、低コスト(アメリカでの撮影の3〜4割減)、ハイクオリティーな映像技術(映画作りが盛んな土地柄)といった三拍子がそろっているからだ。『 9デイズ (2002) BAD COMPANY 』『 トリプルX (2002) XXX 』『 ブレイド2 (2002) BLADE U 』等のプラハを舞台にした映画や、『 ボーン・アイデンティティー (2002) THE BOURNE IDENTITY 』等のプラハを別の国に仕立てて撮影している映画がそうである。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第13段落 チェコスロヴァキア出身の主人公セルマH】   余談になったが、以上のような歴史的・国民的背景を持つ国、チェコスロヴァキア出身のセルマが、大国の横暴や無関心で不幸のどん底に突き落とされる小国という比喩的存在にも感じられた。この映画の時代設定が、ベトナム戦争が起こった 1964 年にしてあるのも、シンボリックである。自分達の大義のために小国をいじめることを良しとしないアメリカ人、そんなことに無関心なアメリカ人、積極的にやり込めたいアメリカ人。当時ベトナムに対して、それぞれの感情をもっていたアメリカ人が、セルマの周りに存在している。もちろんその感情は貧しい移民のセルマに対しても向けられている。しかし、最初は誰もが、純粋な心" Gold Heart "を持つセルマに親切だ。弱者に救いの手を差しのべるアメリカ人を演じている。その行動が正反対のものになるのは、状況が自分達の利益に関わってきた時なのである。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第14段落】  セルマ側のアメリカ人の代表は、キャシーとジェフ(ピーター・ストーメア)だ。彼らのセルマに対する優しさは本物で、二人の訛った英語から、セルマと同じような移民であると思わせる。セルマと同じ工場で働いているキャシーは、一緒に町のミュージカルに参加してくれたり、ミュージカル映画を観に行って解説してくれたりと、目の不自由なセルマをいつも気遣ってくれる優しい女性。セルマを自分の娘のように感じているのだろうか。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第15段落】  キャシーを演じる、言わずと知れたフランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴは、この映画でも流石の存在感である。ドヌーヴはこの映画に出演するために、自分から監督に手紙を書いたそうだ。カトリーヌ・ドヌーヴが出演している、ヨーロッパ製のミュージカル映画にも感化されたという監督は、彼女の申し出をすぐに受けた。カンヌで女優賞に輝いたのはビョークだが、この映画は二人の女優の存在でバランスが取れていると思う。セルマが歩むあまりにも悲惨な人生とそんな彼女に対するキャシーの優しさ、ビョークとドヌーヴの全く違ったタイプの美しさといったコントラストが、映画全体の品位を保たせていると思った。それにしてもカトリーヌ・ドヌーヴは、 1943 年 10 月 22 日生まれ(天秤座)が嘘のようにキレイだ。カンヌでの彼女の映像を観て驚いた。憧れてしまう。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第16段落】  ジェフはセルマに想いを寄せる、背の高い健気な男性。セルマの工場での仕事が終わると、ボロボロのトラックでいつも彼女を迎えに来てくれる。しかし、セルマは彼の優しさを知りながら、恋人は必要ないといつもジェフの誘いを拒んでいる。たぶん視力を失う運命にある自分が彼に迷惑をかけることになるのを恐れていることもあるのだろう。セルマと同じように、小賢しい知性とは無縁な感じのジェフは、純粋で、彼のセルマへの愛情は変わらない。

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【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第17段落 ピーター・ストーメア】  スウェーデン出身の俳優であるピーター・ストーメアは、確かな演技力のある性格俳優として、最近スクリーンで見かけることが多くなったなと感じている。スウェーデン出身だけあって、その訛りのある英語は独特である。彼を強烈に印象付けたのは、コーエン兄弟の『 ファーゴ (1996) FARGO 』の大男の極悪犯人ゲアだ。その後も『 ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク (1997) THE LOST WORLD: JURASSIC PARK 』『 ショコラ (2000) CHOCOLAT 』『 スパン (2002) SPUN 』『 タキシード (2002) THE TUXEDO 』『 ウインドトーカーズ (2002) WINDTALKERS 』『 マイノリティ・リポート (2002) MINORITY REPORT 』『 コンスタンティン (原題) (2004) CONSTANTINE 』『 ブラザーズ・グリム (原題) (2004) THE BROTHERS GRIMM 』等のハリウッドのメジャー級作品に出演している。『 レナードの朝 (1990) AWAKENINGS 』が彼のアメリカ映画デビュー作品で、神経化学者の役で出演していたようだ。また、舞台でも活躍されていて、日本では東京グローブ座のthe Associate Artistic Director(副芸術監督と訳すのか?)になったこともあるそうだ。俳優・脚本家・演出家といった、多種多芸な顔を持つピーター・ストーメアは、これからも要チェックアーティストである。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第18段落】  工場主任のノーマン(ジャン=マルク・バール)も、目が不自由なためにプレス盤に金属板を二枚入れてしまって機械を壊してしまうセルマに対して仕事上の立場はあるが、眼差しは優しい。町のミュージカルの演出家サミュエル(ヴィンセント・パターソン:本作の振り付けも担当)もセルマのミュージカルの才能を認め、彼女に優しく接している。しかし、彼らは無関心、傍観者側のアメリカ人に属する。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第19段落】  セルマを奈落の底へと突き落とすのは、警官のビルとその妻リンダ(カーラ・セイモア)。彼らはセルマにトレーラーハウスを貸し、工場に働きに出て忙しいセルマに代わってジーンの面倒を見てくれたり、ジーンの誕生日のプレゼントに自転車を贈ってくれたりと、とても親切だった。しかし、それは偽善だ。彼らは自分達よりも不幸な者を見て、優越感に浸りたいといった類の人物だ。あくまでも Gold Heart なセルマは、リンダが喜ぶからと、ビルが相続した遺産についてよく話題に触れるようにしていた。リンダが自分で意識しているがどうかはわからないが、彼女は夫自身よりも、彼が持つお金を愛しているようだ。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第20段落】  ある夜セルマのトレーラーにやって来たビルは、彼女に悩みを打ち明ける。リンダが浪費家なお蔭で、彼は無一文となってしまっていた。銀行への支払いが遅れているため、家を差し押さえられることになる。しかし、リンダを失うことが怖くて、その事実を彼女に伝えることができない。絶望に打ちひしがれるビルに、セルマは自分の秘密を打ち明け、彼の気持ちを和らげようとする。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第21段落】  セルマの秘密はもっと悲惨だ。セルマは今年中に失明する。彼女がアメリカに渡ってきたのは、同じ病気が遺伝している息子ジーンに手術を受けさせるためだ。彼女が内職までして貯金しているのは、故国の父親に送金するためではなく、その手術代を稼ぐためなのだ。父親オルドリッチ・ノヴィの存在はでっち上げだった。オルドリッチ・ノヴィという名前は、チェコスロヴァキアが生んだタップ・ダンサーから取った。ミュージカルが大好きなセルマは、ミュージカル映画を観る極意をビルに教える。「最後から2曲目が終わったら、映画館を出て行くの。そうしたら映画は永遠に続くでしょう。」

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第22段落】  別の日、セルマの秘密を聞いて彼女がある程度お金を貯めていることを知ったビルは、彼女にお金を1ヶ月間貸してくれるように頼んだ。それもリンダがソファを欲しがっているという様な他愛のない支出のせいだ。それはジーンのお金だとセルマが断ると、ビルは死ねば楽になると泣き言を言い、優しいセルマの心に圧力をかける。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第23段落】  セルマはビルのために何かしたいと思ったのか、自分の秘密を告白したことで、もっと頑張らなければならないと思ったのか、彼女はカード作りの内職を増やし、工場では夜勤にまで出ることにした。そんな彼女を心配したキャシーは、セルマの夜勤仕事を手伝う。キャシーの行為に感激する気持ちと疲れとで、セルマは工場の機械が出すリズムに耳を傾けながら思わず空想にふけってしまう。空想のミュージカルの中で、セルマは「 Cvalda (クヴァルダ)」を歌い踊る。"クヴァルダ"とは、セルマがイメージするキャシーの名前で、セルマは彼女をこの名前で呼ぶことがある。しかし、楽しいミュージカルは、プレス盤に金属板を2枚入れたことで終わってしまった。セルマはまた機械を壊したのだ。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第24段落】  夜勤が終わってセルマ達が工場の外に出ると、ジェフが迎えに来てくれていた。セルマはキャシーを送ってくれるようにジェフに頼み、自分は線路沿いに歩いて帰るのだった。殆ど失明しかかっているセルマの目では、夜道は何も見えない。足で線路を確認して歩いていくセルマを見て、キャシーは胸が詰まる。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第25段落】  セルマの留守中預かっていたジーンをトレーラーに連れてきてベッドに寝かしたビルは、疲労困憊して帰宅したセルマにリンダに全てを打ち明けると伝えた。そして、セルマが何も見えていないことを悟ると、ドアを開ける音だけ出して、トレーラーの中に留まった。セルマはビルが帰ったと思い、お金をしまっている缶を取り出して、その中にお金を入れた。お金のありかを知ったビルは、こっそりとトレーラーを出て行った。彼が妻リンダに真実を伝えることはない。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第26段落】  それから、セルマには良くないことばかり起こる。失明したセルマは、あんなに大好きだった町のミュージカルの主役を降りることにする。降板の理由に目が見えないとは言わず「やる気がうせた」と話すセルマ。演出家のサミュエルにはセルマにマリア役ができなくなることが分かっていたのだろう。彼は彼女に修道女の役をプレゼントした。工場主任のノーマンは、機械を壊す頻度が高いセルマに優しく解雇を伝える。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第27段落】  クビになったセルマはいつもより早く工場を出た。今日はジェフに頼み事があったので、彼に会いたかったが、まだ来ていなかった。セルマは線路沿いに家に向かった。ちょうどセルマが鉄橋に差し掛かったとき、ジェフが追ってきた。セルマは3時に大切な用があるので、トラックを廻して欲しいとジェフに頼む。列車がやってくるのに気付くのが遅いセルマを見て、ジェフは彼女が視力を失ってしまったことを知る。「見えないのか?」と尋ねるジェフの声と列車の音で、セルマは「私はもう見た、見るものはない」と空想の中に入っていく。ここでセルマが歌う「 I've Seen It All 」の歌詞は、人生の諦めを歌っていて、とても悲しい。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第28段落】  家に戻ったセルマは、工場でもらったお金をしまおうとし、缶の中が空っぽであることに気付く。セルマはすぐにビルの家に向かった。リンダはビルからセルマが彼を誘惑したと聞かされていた。しかし、セルマは何の弁解もすることなく、ビルの居る二階に上がり、彼にお金を返してくれるように頼む。働き口を失ったセルマは、今日、目のお医者さんに手術代を払うことに決めたのだ。自分の 2056 ドル 10 セントの入った黒いポーチをビルの手から取ったセルマが部屋を出て行こうとした時、ビルは引き出しの中の銃を取り出して彼女に向けた。セルマを銃で脅して、リンダを呼び、セルマがビルのお金を盗むために銃を奪ったように見せかけた。そしてリンダに車に手錠を取りに行かせ、その間にセルマに自分の言うとおりにするように言う。しかし、それはジーンのためのお金だ。いくら人のいいセルマでもこれは譲れない。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第29段落】  ビルからお金を取ろうともみ合いになり、その拍子に銃弾が彼に当たってしまった。すっかり混乱していたビルだが、その銃弾で自分の進むべき道がはっきりした。ビルは自分のしていることが極悪非道であることは分かっているが、リンダや自分が築き上げてきた地位を失うことを恐れて、自分の不名誉をセルマに擦り付けて自分の名誉を守ることにしたのだ。ビルは銃を持って立ちすくんでいるセルマに自分を殺してくれるように頼むが、リンダが戻ってきたことに気付くと、彼女に隣の農場へ行って警察に連絡するように命令する。リンダが居なくなると、ビルは「金が欲しけりゃ、殺して持っていけ」と言い、セルマの手を取って銃口を自分に向けさして引き金を引かせた。泣きながらセルマは言われるままにビルを見下ろして銃で撃った。何発も撃って銃弾がなくなってもビルはお金を離さない。セルマはビルが銀行から持ってきていた貸し金庫で彼の頭を殴り、やっとの思いで彼からお金を取り返す。ビルはもうすっかり死んでいる。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第30段落】  ビルのレコードが回っている。その音でセルマは空想の世界に浸る。ここでセルマが歌うのは「 Scatterheart 」(だと思う)。彼女の引き裂かれた心は、自分の行為が仕方のないものだったことを知っている。セルマのお金を奪い、追い詰めたのは、ビルだ。しかし、命を奪った自分を許して欲しい。セルマは息子ジーンのためにこうしなければならなかった。しかし、息子を犯罪者の子供にしてしまうことに胸を痛めずにいられない。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第31段落】  セルマが外に出ると、3時には早いが、ジェフが迎えに来てくれた。彼のトラックがセルマを乗せて道路に出たとき、パトカーがビルの家の敷地内へと入っていった。セルマが向かう先は、病院だ。ジェフに行き先を知られたくないセルマは、彼に後をつけないように言って車を降りた。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第32段落】  セルマと同郷の Porkorny 医師(ウド・キア)は、手術代の額には足りない金額だったが、セルマの 2056 ドル 10 セントを受け取った。セルマが領収書の受け取りを拒むと、 Porkorny 医師は手術をしに息子がやって来た時に名前がわからないと言った。それでセルマはその時は息子にノヴィと名乗らせることにし、 Porkorny 医師に対して身元を確かにすることにした。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第33段落】  ジェフは約束したわけでもないのに、セルマを降ろした所でずっと彼女を待っていた。セルマが戻ってくると、彼女をミュージカルの稽古に連れて行った。ミュージカルの稽古場では、皆もうセルマの事件を知っているようだ。しかし、サミュエルはそんな素振りを見せずにセルマに接し、彼女を稽古場に留まらせている間に、警察を呼ぼうとした。ジーンに会いに家に帰ろうとするセルマに、サミュエルは「 Climb Ev'ry Mountain (全ての山に登ろう)」を他の皆に演奏させて引きとめようとする。セルマはその音で空想の世界に入っていく。ここで流れる「 In the Musical 」は心の支えであるミュージカルが大好きな気持ちを歌った歌。そしてそのままセルマは警察に連行されていく。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第34段落】  裁判はセルマに勝ち目はなかった。呼ばれた証人の証言は、全てセルマに不利なものばかりだった。工場で働くために、目の検査を暗記でやり過ごしたことで、医師はセルマが近視だったと言った。工場主任のノーマンは、共産主義を自慢しているセルマがアメリカ製のミュージカルが好きだと言った。被害者の妻リンダは、セルマがビルの遺産のことをよく尋ねてきたことや、命乞いをするビルに銃を向けていたことなどを話し、涙ながらにセルマの死刑を訴えた。本物のオルドリッチ・ノヴィ(ジョエル・グレイ)が召喚され、故郷の父に送金するため貯金していたというセルマの嘘が明らかになってしまった。医師もノーマンもリンダもオルドリッチ・ノヴィも自分の知る事実を述べただけ。しかし、それらは全てセルマを糾弾する材料になった。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第35段落】  その上、"沈黙でいこう"とビルと二人の秘密を内緒にすることを以前に約束していたセルマは、その約束を忠実に守り、ビルについて不名誉なことを一言も裁判で証言しなかった。また、自分が貯金していた本当の理由も言わなかった。「なぜ彼を殺した?」と質問する検察官に対して、セルマはビルの頼みだったと答えるが、それは何の信憑性もない証言と受け止められた。なぜならセルマは、嘘つきで、共産主義思想を持つ、恩を仇で返す冷酷非道の強盗殺人犯だからだ。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第36段落】  追い詰められていく裁判の中で、大好きだったオルドリッチ・ノヴィの存在をそばで感じ、法廷絵画を書く人の鉛筆の音を聞いて、セルマは空想の「 In the Musical 」の世界へと逃避した。「全員起立」地方判事の声でミュージカルは終わった。判決は、第一級殺人罪で有罪、死刑。セルマは州立刑務所に収監され、しかるべき時に絞首刑に処されることになった。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第37段落】  刑務所に面会にやって来たキャシーに、セルマはジーンが誕生日に手紙を受け取ることを教える。ガラス板で遮られた二人は、受話器を通して話をする。セルマはジーンの目のことには触れず、キャシーにその時はジーンを励ましてやって欲しいと頼む。セルマはこの期に及んでもキャシーにすら真実を話さない。なぜなら、ジーンが自分の目のことを知って、不安になってしまうと、手術に悪い影響を及ぼしてしまうからだ。「その時、ノヴィと名乗らせて」と、秘密めいたことばかり言うセルマに、キャシーはジーンへの伝言を頼む。しかし、セルマはジーンに面会しようとも、言葉を伝えようともしなかった。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第38段落】  そんな母親の姿を見た看守のブレンダ(シオバン・ファロン)が、監獄へ戻る途中、「息子を愛しているのね」とセルマに話し掛ける。「私の宝物よ」という返事に、映画の観衆は涙を流さずにはいられないだろう。もし、ジーンの手術代として病院にお金を支払ったことが衆知になれば、そのお金はビルのものとして没収されてしまうだろう。そうならないためにセルマは領収書を受け取らず、裁判でそのことには一言も触れず、死刑にされてしまうのだ。囚人となった自分の姿を見せたくないという母心が、同じように母であるブレンダの心を打ったのだろう。また、セルマが、息子のために必要以上の罪を被っていることが、彼女に何となく伝わったのかもしれない。ブレンダはセルマに優しい態度を取るようになる。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第39段落】  自分がトラックで送った後、セルマがどこに行ったのか探ってみたジェフは、彼女が病院に向かったことを知る。それで、ジーンがノヴィと名乗って手術を受けることが判明した。この事実があれば、息子を守るための犯行だったと主張して、有利な判決が得ることができるだろう。キャシーは、セルマに一度しかできない刑の延期を請求し、新しい弁護士をつけるように言う。一縷の望みができたが、セルマは静かな刑務所の中で、恐怖に押しつぶされそうになっていた。換気口からもれる微かな賛美歌のような音を聞き取り、セルマは自分の心にミュージカルを呼び起こそうと、サウンド・オブ・ミュージックの「 My Favorite Things 」を歌う。そんな彼女にブレンダから刑の延期が認められたことが伝えられた。・・・

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◆ここからは、結末まで書いていますので、ストーリー全体が分ります。御注意下さい。
 ATTN: This review reveals the movie content. Please don't say that I didn't say !


【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第40段落】  セルマは希望を持って新しい弁護士に会った。しかしその弁護士を雇うために、キャシーが2056 ドル10 セントを支払っていたことを知る。その金額を聞いて、ジーンの手術代のお金が、自分の裁判の為に使われることを悟ったセルマは、弁護士を雇わず、死刑を続行することにした。刑は一度続行すると二度と止められない。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第41段落】  ジェフが面会に現れた。ジェフはセルマからだと言ってジーンに漫画の本を誕生日にプレゼントしたらしい。彼の少ない言葉で、そのことを察知したセルマは「二度としないで」と怒る。ジェフはジーンがセルマの刑の執行を見届けたがっているが、年齢制限でダメだったと伝える。「誰の入れ知恵なの?」とセルマはまた怒る。「僕は来たい」ボソリと言うジェフに、セルマはキャシーにも耐えられるなら見届けて欲しいと伝える。そんな話をして胸が詰まってくるジェフは、目の疾患が遺伝すると知りながら、なぜジーンを産んだのかとセルマに尋ねる。赤ちゃんを抱きたかったと答えるセルマに、ジェフは「愛してるよ」と伝える。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第42段落】  セルマは死刑を待つ独房に移された。恐怖に押しつぶされているセルマは、ベッドに寝転がったきり。食事が差し出されるが、死刑の前にご飯なんか食べられるだろうか?セルマにその時が訪れた。死刑執行室まで 107 歩。セルマは歩いて行かなければならないが、怖くて立つことができない。そんなセルマに尊厳をもって死に向かわせようと、看守のブレンダは2拍子で足音を立て、彼女を勇気付けようとする。音がないとセルマがミュージカルを想像できないことを、ブレンダは知っているのだ。その音でセルマは「 141 Steps 」の歌に合わせてミュージカルを空想し、恐怖を打ち消した。

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第43段落】  所定の位置につかされたセルマは、最期の言葉を訊かれるが、何も答えなかった。黒い布をかぶせられた時、彼女は恐ろしさに倒れてしまう。恐怖におののくセルマの顔が、処刑台の下で公開処刑を見る人々に露になる。その中の一人であるキャシーは居たたまれない気持ちになる。リンダも立会いに来たようだ。ジェフの姿が見えないのは、きっとジーンの側に付いてやっているからだろう。セルマは板に縛られ、処刑されることになる。再び黒い布を頭にかぶせられたとき、セルマはパニック状態に陥り、「布はイヤよ、息ができない」と叫び出す。セルマを思うブレンダは布を取ってやり、盲目である彼女のための特例として、布なしで刑を執行できるように訴える。男性がその許可を求めるために電話している間、興奮状態のセルマはジーンの名を呼び続けていた。キャシーは階段を上がり、セルマの許に駆けつけ、「あの子は外よ」とジーンのメガネを渡す。メガネをはずしているということは、ジーンは手術を行ったのだろう。セルマは「手術をしたのね?」と安心し、「愛するジーン…」と歌い出す。「…これは最後の歌じゃないわ…最後から二番目の歌、ただそれだけのこと…」

【ダンサー・イン・ザ・ダーク 第44段落】  歌が突然途切れ、セルマの体がぶら下がる。すると、死刑に立ち会う人々の前にカーテンが引かれる。処刑台の上には、呆然と立ちすくむブレンダの姿。

They say it's the last song.
They don't know us, you see.
It's only the last song
If we let it be.
これは最後の歌じゃない。
分かるでしょう?
私達がそうさせない限り、
最後の歌にはならないの。

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【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の感想】

【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の感想 第01段落】  監督は死刑制度には反対だそうだ。EU加盟の条件には死刑の廃止がある。だから監督曰く、母国デンマークでは、死刑はとても異質なもののように感じられているのだろう。先進国と呼ばれる国の中では、死刑制度を残しているのは日本とアメリカだけだ。だからラストの衝撃的なシーンが、アメリカは西部劇そのままに未だに公開処刑を行う野蛮な国だという、ヨーロッパ人からの皮肉だと、この映画が嫌いなアメリカ人は取ったのかもしれない。監督はその意図を否定しているのが、そういった意味も無きにしも非ずかなぁと思うケド。

【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の感想 第02段落】  しかも、セルマが殺害した、アメリカの警官ビルは、最初は貧しいセルマを助ける振りをしているが、自分の立場や地位や名誉が危なくなると、それらを守るために、彼女を不幸のどん底に突き落とす。自分も死んでしまうけど、対外的な彼の名誉は守られた。彼がセルマの額に汗して稼いだお金を盗んだとは、セルマ以外誰もはっきりと知らない。全世界の警官たらんとして、諸地域に軍隊を派遣するアメリカを暗に批判しているとも取れる。また、ベトナム戦争でのアメリカの姿も思い出させる。

【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の感想 第03段落】  ビルの利己主義のために絞首刑にかけられたセルマは、大国の傲慢や自国の政権の圧政に苦しんできた国々で、自分たちの自由を取り戻すために戦ってきた"レジスタンス"な人々を象徴しているようにも思う。監督の母親が大戦中にレジスタンス運動をしていた人だというから、そういう視点も無きにしも非ずかなぁ。また、セルマがチェコスロヴァキア出身であることから、共産主義政権下で戦った東欧諸国の人々なども連想させる。セルマが自分と同じように盲目なる運命だったジーンに光をもたらすために命を捧げたように、彼らが子孫に未来を託すためには、多大な流血の犠牲を伴わなければならなかった。セルマは自分のことを強くないと言ったが、全然そんなことはない。彼らのその"強さ"を伝えるために、最後の残酷なシーンがあったのだと思う。「私達がそうさせない限り、最後の歌にはならない」という最後の歌の力強い歌詞に、その意志を感じた。

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【映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』とドグマ 95 】
 母から受け継がれた監督のレジスタンス精神は、「 DOGME 95 (ドグマ 95 )」の映画活動にも現れている。 DOGME 95 とは、 1995 年の春にコペンハーゲンで設立された映画監督の集団である。この集団は、今日の映画における"ある傾向"への抵抗を目標としているそうで、 THE VOW OF CHASTITY (純潔の誓約)という 10 の誓約を設けている。DOGME 95 のメンバーである監督が製作した、この誓約に従った映画には、 Dogme # 1 、 Dogme # 2 のように、番号が付けられるみたい。フォン・トリアー監督は Dogme # 2 として、『 イディオッツ (1998) THE IDIOTS 』を製作した。DOGME 95 のオフィシャルサイトに載っていた THE VOW OF CHASTITY をここに挙げてみる。(映画制作用語を詳しく知らないので、違和感のある訳になっていることをご了承ください)監督の映画に対する姿勢が理解できるかもしれない。

「私は DOGME 95 によって作成され認証された、次の規則に従うことを誓います。
1. 撮影はロケーションで行われなければならない。小道具とセットを持ち込んではいけない。(もし特別な小道具がストーリーに必要なら、ロケーションにはこの小道具が見つかる場所を選ばなければならない)
2. サウンドは映像から離れたところで作ってはならない。また、その逆も同じである。(撮影されている現場の音でなければ、音楽は使ってはならない)
3. カメラは手持ちでなければならない。手で達しうるどんな動作も静止も許されている。(映画はカメラが立っているところで撮影してはならない。映画が行われるところで撮影しなければならない)
4. 映画はカラーでなければならない。特殊な照明は認めない。(映像に殆ど光がなければ、シーンはカットされなければならないか、カメラに単一のランプを付けなければならない)
5. オプティカル処理やフィルターを禁止する。
6. 映画は見せかけのアクションを含んではならない。(殺人、武器などは使ってはならない)
7. 時間的かつ地理的錯乱を禁止する。(いわば映画はその場で撮影される)
8. ジャンル映画は認めない。
9. 映像フォーマットはアカデミー35ミリ(スタンダード・サイズ)でなければならない。
10.監督の名前をクレジットしてはならない。

 さらに、私は監督として個人的嗜好を差し控えることを誓います!私はもはや芸術家ではありません。私は全体よりも瞬間を重要だとみなしているので、「作品」の創作を差し控えることを誓います。私の最高の目標は、私の映画の登場人物と背景から真実を強引に奪うことです。私は
利用可能な全ての手段によって、どんな良い嗜好もどんな芸術的考察も犠牲にしてそうすることを誓います。
 したがって私は、私の VOW OF CHASTITY を行います。」
   1995 年 3 月 13 日(月) コペンハーゲン
DOGME 95 を代表して
ラース・フォン・トリアー トーマス・ヴィンターベア

 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はミュージカルというジャンル映画の一つだと思う。( DOGME 95 オフィシャルサイトでこの映画は Dogme-films の中にはなかった) しかし、DOGME 95 の精神は反映されているだろう。面白かったのは、ジェフのミュージカルに対するコメントである。「…なぜ突然歌ったり踊ったりするのか不思議だ。僕はしないよ。急に踊ったりなんて。」これは監督自身のコメントでもあるだろう。監督もこの映画の中にあるそういった部分が気に入らないようである。

以上。
<もっと詳しく>からスペースを含まず18623文字/文責:幸田幸

参考資料:「映画の森てんこ森」映画タイトル集
       http://www.coda21.net/eiga_titles/index.htm
      IMDb
      allcinema ONLINE
      Nostalgia.com
      CinemaClock.com
      外務省ホームページ
      チェコ共和国大使館ホームページ
      「イディオッツ」日本語版オフィシャルサイト
      DOGME 95 オフィシャルサイト
      公式サイト(英語版)
       http://www.dancerinthedark.com
■映画『 ダンサー・イン・ザ・ダーク (2000) DANCER IN THE DARK 』の更新記録
2002/12/28新規: ファイル作成
2003/04/04更新: ◆映画や俳優についてリンク
2004/07/12更新: ◆テキスト一部とリンクおよびファイル書式
2005/03/13更新: ◆一部テキスト追記と書式変更
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幸田 幸
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