映画インセプション秘話＠映画の森てんこ森

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　映画インセプション秘話

映画『インセプション　(2010) INCEPTION 』の解説

映画『インセプション　(2010) INCEPTION 』の予告編
※動画はWarnerBrosPicturesで掲載

映画インセプション秘話

【映画インセプション秘話】

　今日のタイトルは「映画インセプション秘話」です。
　そしてYouTube動画映像版は映画『インセプション』の予告編です。
　映画『インセプション　(2010) INCEPTION 』の詳しい映画解説はこちらから。

■映画インセプション秘話

　映画『インセプション　(2010) INCEPTION 』は、対象者が夢に入っている時に潜在意識の奥底まで潜り込み、その対象者のアイデアを盗む技術を持つ企業スパイが仕掛ける特殊ミッション---対象者に「アイデアを植えつける」任務を請け負うスペシャリスト達のＳＦクライム・アクション超大作。

　日本では余り語られていないインセプションの登場人物の隠喩・暗喩を「映画インセプション秘話」としてワタシ的に解釈して以下に紹介する。

【「映画インセプション秘話」その1】
★ドミニク・コブ Dominic Cobb ＝レオナルド・ディカプリオ Leonardo DiCaprio （『タイタニック　(1997) TITANIC 』）
　主人公ドム Dom の本名ドミニク Dominic というのは、ラテン語で "of our Lord（主(しゅ)の、神の、救い主の、イエス・キリストの）" とか "belonging to the God（神に属する）" の意味がある。
　また、主人公の苗字コブ"Cobb" であるが、中世英語で「蜘蛛」を意味した "coppe"が変形して Cob となり、"Spider"と同じ意味。「蜘蛛の巣」"cobweb" "spider's web"というように使われる。この Cob と同じ発音の苗字"Cobb" にしたのだろうか。
　Cobb - COB は 'Centre Of Balance（バランスの中心）' の略語ともとれ、この映画の彼の役柄と“トーテム”独楽（コマ）に適している。

【「映画インセプション秘話」その２】
★モリー・コブ Molly Cobb ＝マリオン・コティヤール Marion Cotillard （『ＴＡＸｉ　(1997) TAXI 』）
　コブの奥さんのモリー Molly、愛称マルMal の意味はフランス語で "bad（悪い）" 、ラテン語で"badly（悪く）" 、英語では別の単語の前に加えて a shade of "badness（悪）"のニュアンスになる（例：malpractice＝医療ミス・違法行為・非行）。
　"Mal" はフランス語で "sickness（病気）"でもあり、映画で出てくる奥さんマルは、夫コブの精神の不安定さの顕示といっていい。
　"Mal" は "bad（悪い）"の意味だけでなく、夫の名前ドム Dom と同様、 "of God（神の）" という意味もある。コブが指摘するように、彼らの夢の世界では自分達を神々と見なしているのだ。

【「映画インセプション秘話」その３】
★イームス Eames ＝トム・ハーディ Tom Hardy （『ネメシス／Ｓ.Ｔ.Ｘ　(2002) STAR TREK: NEMESIS 』）
　イームス Eames という苗字は、1950年代にイームス・ラウンジ・チェア Eames Lounge Chair で代表される有名な家具をデザインしたチャールズ＆レイ・イームス Charles and Ray Eames という建築家・産業デザイナーを思い浮かばせる。この映画では他人になりすましターゲットの思考を誘導する偽装師、捏造者・偽造犯人・盗用者 The Forger ということから建築家の名が使われているようだ。
　Dreams を「Dr+eams」と考えると、Dr. Eames ドクター・イームス（イームス博士）となる。また、夢ドリーム Dreams から Dr を取ればイームズ（イームス）になるシャレかも。

【「映画インセプション秘話」その４】
★アリアドネ Ariadne ＝エレン・ペイジ Ellen Page （『ＪＵＮＯ／ジュノ (2007) 』）
　アリアドネ Ariadne はギリシャ神話でクレタ島のミノス王の娘であり、テセウスがミノタウロスの迷路から抜け出るのを助けたとして知られる。『インセプション　(2010) INCEPTION 』劇中では、コブに迷路を造りもするから「建築家・設計者」 The Architect 、また、コブがそれらの迷路から出るのを導きもする。
　アリアドネ Ariadne はまた、"good（善）" や "pure（純粋）"の意味もあり、この映画でコブが最も暗い秘密を分かち合い自分の潜在意識を垣間見るのを許す唯一の人物像として描かれていることからも納得する。

【「映画インセプション秘話」その５】
★アーサー Arthur ＝ジョセフ・ゴードン＝レヴィット Joseph Gordon-Levitt （『トレジャー・プラネット　(2002) TREASURE PLANET 』）
　コブの相棒アーサー Arthur は、アーサー王 King Arthur と同じ名である。伝説ではアーサー王は決して死なず、代わりに魔法にかけられた眠りにつかされ、いつか目覚めるのを皆が期待しているというバージョンもある。
　アーサー Arthur には "guardian（保護者）"の意味がある。その通りで、映画では相棒アーサーが映画全体を通してコブを護っている。

【「映画インセプション秘話」その６】
★ユスフ Yusuf ＝ディリープ・ラオ Dileep Rao （『スペル (2009) 』）
　夢の世界を安定させる鎮静剤を作る「調合師」 The dream potion maker のユスフ Yusuf であるが、イスラム教の聖典コーランの中で、ユスフの話は、彼が見た楽しい夢から始まるそうだ。そして夢を分析する能力を与えられた人物として知られている。
　ユスフ（ユースフ） Yusuf というのは聖書のヨセフ（ジョセフ）英語のJoseph ジョセフのアラビア語・ヘブライ語版の名である。ヨセフは夢を見る預言者である。因みにユスフ＝ヨセフは、スペイン語名ホセ、ポルトガル語名ジョゼ（Jose）、ドイツ語名ヨーゼフ、ポーランド語名ユゼフ（Jozef）、イタリア語名ジュゼッペ（Giuseppe）に対応する。

【「映画インセプション秘話」その７】
★スティーヴン・マイルズ Stephen Miles ＝マイケル・ケイン Michael Caine （『バットマンビギンズ　(2005) BATMAN BEGINS 』）
　スティーヴン・マイルズ教授 Stephen Miles は S.Miles = Smiles （微笑み）となり、コブをハッピーエンドに導く役に合っている。
　また、"Miles”という名には、"uncertain（不明確な）" "peaceful（平和な）"という意味がある。その通り、この映画でマイルズ教授の人となりはあまり描かれていなくて不明確。一応コブの義理の父・庇護者。でも、マイルズはコブに自問して疑問を抱くように強要する数少ない人物の一人であり、コブに、現実に戻って来いと何度も駆り立てる平和の人なのだ。

【「映画インセプション秘話」その８】
★サイトー（サイトウ／斉藤・斎藤）ケン・ワタナベ（渡辺謙） Ken Watanabe （『ラストサムライ　(2003) THE LAST SAMURAI 』）
　サイトー（サイトウ／斉藤・斎藤）は実力ある実業家である。ライバル企業フィシャー社の跡継ぎであるターゲット、ロバート・フィッシャーに、結果的に父親から継いだ会社をつぶしてしまうようなインセプション（アイデアを植えつけること）がサイトーの依頼である。サイトーはミッション実行のため航空会社まで買収して、オブザーバーとしてコブのインセプションミッションチームと同行する。サイトーは夢の世界で銃で撃たれて重傷を負いながら、「お前との約束は必ず守る」とコブに言う。老人サイトーの場面が『インセプション　(2010) INCEPTION 』劇中冒頭と終盤の２度出てくる。最後にコブとともに目覚めたサイトーは約束通り電話をかけてコブの犯罪歴を末梢してやる。大活躍の渡辺謙サイトーである。
　サイトーについては、日本名なので神話や聖書やラテン語などの暗喩は適用できないし、またいくらクリストファー・ノーランでも日本史を詳しく勉強しているとは思えない。しかしサイトーが策士で幾多の修羅場を潜り抜け、やがては若き織田信長に、自分が死んだら美濃国を譲ると約束した戦国武将斎藤道三（さいとうどうさん）をイメージして配役しているなら、もっともっと渡辺謙の演技が生きてくるような気がする。

　「映画インセプション秘話」の最後に、映画『インセプション　(2010) INCEPTION 』の主要登場人物・ドリーマー達の名前のイニシャルを並べると、この映画のコンセプトである「夢 DREAMS 」となっているって皆さんお気づきでしたか？

D- Dom　ドムの「Ｄ」
R- Robert　ロバートの「Ｒ」
E- Eames　イームスの「Ｅ」
A- Arthur/Ariadne　アーサー／アドリアネの「Ａ」
M- Mal/Miles　モル／マイルズの「Ｍ」
S- Saito サイトーの「Ｓ」

　このような頭文字を並べて遊ぶのは、映画『インセプション　(2010) INCEPTION 』の監督・脚本・製作を務めた、さすが細部に仕掛けをするクリストファー・ノーラン Christopher Nolan 監督の茶目っ気なのかもしれない。

テキスト：幸田幸

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