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シャイな幸の独り言 |
「食は芸術」の原点
(映画「バベットの晩餐会」を観て...) |
2003年01月24日金曜日 |
なんといっても、映画 『パリのレストラン (1995) AU PETIT MARGUERY』の魅力は、先ず、食欲を刺激するフランス料理である。フォアグラのオードブル、前菜(アントレ)、肉料理又は魚料理、チーズ、デザートのケーキ、コーヒーなどの飲み物。アップになったグリルされたお肉や、焼きあがったケーキのスポンジの映像は、匂いまでわかるような気がした。そんなお料理を口にしてみたいものだが、フランスに行きたしと思えど、フランスはあまりに遠いので、自分で似たようなものを作れたらいいなぁ。ちょっと料理学校にでも行ってみようかなぁ、なんてガラにもないことを思ってしまった。すぐに映画に影響されてしまう私。パーティに出席したのは、多種多様な人種・職種を持つ若者たちだが、レストランのテーブルを囲んでいる間だけは、おいしい料理の下に平等であるのだろう。 |
(c)Courtesy of MonsieurCinema.com |
フランス料理レストラン"プチ・マルグリィ"の閉店パーティの出席者たちの選んだアントレ(前菜)を思い出してみる。フランス語でアントレは、<entrée>と書き、オードブルや魚料理の後で出される最初の料理のこと。
*マリア(アニエス・オバディア)が食べた前菜料理はエビのグラタン。パイ生地のようなものに、グラタンが包まれているそのアントレは、エビ好きの私にはとても美味しそうに思えた。たぶん夫のバルナベも同じアントレを選んでいたと思う。
*ポール(ジェラルド・ラローシュ)のアントレは、チェコ産のカエルだ。
*アン=フランソワ(マリー・ビュネル)は、テリーヌ(何のテリーヌかはわからない)。
*ビムトゥ(ミミ・フェリクシンヌ)は、エスカルゴ。私は本場フランスでエスカルゴを食べたことがないので、どんな味がするのかとても興味がある。
*トマ(トマ・シャブロル)は、ニシンのポテト添え。ニシンをどんな風に料理したのだろう。 |
*ミレヌ(クレール・ケーム)が食べたのは、マスのムース。それはシェフのお得意料理の一つで、ジョセフィーヌの説明によると、マスの切り身に卵とクリームを混ぜて蒸し、ザリガニのクーリ(トマト、果物、野菜などを裏ごしして液体状にしたもの)で包んだものらしい。幸はブルターニュに行った時は、確か、名前もわからないパイ包みの料理を夕食毎に食べたけど、これも同じような味がするのかなぁ。これは是非食べてみたい。
*ダニエル(男)(アラン・ベージェル)は帆立貝。以前パリのレストランのメニューでコキーユ・サン・ジャックというのがあって、帆立貝だったのだが、これは美味しかった。
*ダニエル(女)(ロランス・コート)のアントレは、ミレヌに勧めてもらった、マスのムースと、夫とシェアした子羊の鞍下肉(セル・ダニョー)。
*ペールは温かいフォアグラだった。
もともと、フランス料理の原点は、古代ローマにあるらしい。以前教育TVのイタリア語講座でジローラモさんが、<Tutte
le strade portano a Roma. すべての道はローマに通ずる.。>という諺(幸の覚え違いかもわかりませんが、)を教えてくれたが、料理もやはりローマに通じているのだ。
例えば、フォワグラ、チーズ、フザンダージュもの、ワイン、香辛料やハーブ、ガルムなどは、食を自国の文化として誇るフランスよりも遥かに早く、古代ローマで既に行われていたらしい。
彼らの料理法の基本の一つに、発酵や熟成がある。牛やヤギの乳からチーズを作るのはその典型だろう。(幸はヤギのチーズは臭くて食べられない。)日本でも納豆や醤油もそうだ。英語で酢のことは、<vinegar
ヴィネガー>というが、これは葡萄(ぶどう)酒から来ている。フランス語でワインは<vin
ヴァン>、イタリア語で<vino ヴィーノ>、ラテン語で<vinum
ヴヌム>と言う。どちらも<vin>で始まっているのは面白い。日本語も酒と酢はどちらも偏とつくりに「酉」を使っているのは興味がある。
ローマ人は、鵞鳥を肥らせてその肥大した肝臓であるフォアグラを食べたり、雄鶏を去勢して旨い肉を得る方法や狩猟肉をフザンダージュ(熟成)させてより美味しく食べたり、ガルムといって小魚を腐らした魚醤を調味料としたり、また香辛料やハーブを肉の毒消しや匂い消しに使うなど、彼らの食に関する欲望と知恵はすごい。この知識は、ローマ帝国滅亡後も中世のイタリア貴族たちに引き継がれていく。今日のフランス料理とその料理法の礎は、メディチ家だといっても過言ではないらしい。フィレンツエ出身のカトリーヌ・ド・メディチが、アンリ二世に嫁ぐ際に彼女のお抱え料理人をつれてきた。ここからフランス料理は洗練されていく。ローマ人の最高級の料理は、宮廷でフランスの王侯貴族たちに大歓迎され、フランス料理としてアレンジされて、いっそう芸術的に豪華になっていった。
人生は食なしに考えられない。そして食は人の身も心も満たす。こう考えると、先日観てまだレヴューしていないが、デンマーク映画『
バベットの晩餐会 (1987) BABETTE'S FEAST/BABETTES
GAESTEBUD 』で、1913年に閉店したパリの高級レストラン・カフェ・アングレの元女シェフのバベットが、クジで当たった一万フランを使って、清貧・粗食の信仰深い村人たちに御馳走する。そして美しい二人の老姉妹と村人たちは、寒いデンマークの空の下に、胃袋も心も温かく、豊かに満たされる。彼女は一文も無しになってしまうが、彼らにとっては正しく天の恵みだっただろう。厳格で高尚な宗教心を持つ姉妹と、愚かな村人である人間の、時には生身の人間としてのホッとした安らぎである。それが真理で、「食は芸術」の原点なのかも知れない。また、『
星降る夜のリストランテ (1998) LA CENA 』では、訪れる客の様々な人生の問題事を、結局は料理を食べ終わって帰宅するときには、それなりに何とか解決できている。料理=食はそんな力を持っている。
そういえば、幸もお腹が空くと、集中力が無くなりよくミスをする。父は機嫌が悪くなって一寸したことで怒り出す。
Getting hungry is getting angry.
ハングリー(空腹)はアングリー(怒り)なのかな?
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※海外在住のK氏のご指摘より、一部修正して更新(2004年05月26日) |
Text by Sati Coda |