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グリーン・デスティニー CROUCHING TIGER,HIDDEN DRAGON 【解説】 王度廬(ワン・ドウルー)による原作を、台湾出身の李安(アン・リー)監督が映画化したもの。監督は子供の頃から憧れていた中国の英雄伝をこの作品で実現し、アメリカでも大ヒット。「グリーン・デスティニー(碧名剣)」と呼ばれる名剣をめぐる、二組の男女の愛情劇が絡んだ物語。 一組は、剣士リー・ムーバイを演じるチョウ・ユンファと女弟子のシューリンを演じるミシェール・ヨーの中年同士のプラトニック・ラブ。二人ともベテラン俳優。もう一組は、中国は北京の若手女優チャン・ツィイーと、台北のやはり若手男優チャン・チェンの情熱カップル。 名剣をめぐる武術のアクションと、中国ならではの雄大なロケでのラブ・ロマンスを上手く配合して、優雅な武侠もの映画に仕上がっている。チャン・ツィイーは実に魔性を秘めた美しさで、中国の女優さんって綺麗だなぁと思わず見とれてしまう魅力。この映画で認められ、ジャッキー・チェンの「ラッシュアワー2」のヒロインに抜擢され出世した。 |
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【スタッフとキャスト】 監督: アン・リー Ang Lee アクション監督: ユエン・ウーピン Yuen-Woo-ping 製作: ビル・コン シュー・リーコン アン・リー Ang Lee 製作総指揮: ジェームズ・シェイマス James Schamus デヴィッド・リンド 原作: ワン・ドウルー 脚本: ワン・ホエリン ジェームズ・シェイマス James Schamus ツァイ・クォジュン 撮影: ピーター・パオ Peter Pau 美術監督: トミー・イップ Timmy Yip 音楽: タン・ドゥン ヨーヨー・マ Yo-Yo Ma 主題歌: ココ・リー 出演: チョウ・ユンファ Chow Yun-fat リー・ムーバイ ミシェール・ヨー Michelle Yeoh シューリン チャン・ツィイー Zhang Ziyi イェン チャン・チェン Chang Chen ロー チェン・ペイペイ Pei-pei Cheng ジェイド・フォックス <もっと詳しく> この映画の製作に当たり、興味深い裏話がある。先ず、主役の剣の名手リー・ムーバイは「亜州影帝(アジア映画の帝王)」と呼ばれるチョウ・ユンファ。香港映画でお馴染みの俳優だ。彼は 30〜40 本の映画に出演しているが、果たして剣術の心得はあるのか?と思いながらこの映画を見ていた。そして、後で調べたら、やはり、裏があったのだ! 本来は、この剣の達人の主人公はジェット・リーで話が決まっていた。ジェット・リーとは、中国名リー・リンチェイ、中国全国武術大会5回総合優勝というスゴイ経歴の俳優だ。「少林寺」の大ヒットで銀幕デビューして以来、中国・香港映画を経て、現在ハリウッドにも進出の、本格的武術のできる俳優だ。監督のアン・リーが数年前から、君でこの映画を撮ろう、ということになっていたらしい。名剣をめぐるというこの映画のストーリーからして当然だと思う。それが、ジェット・リーがニナ・リーさんと結婚して、奥さんが妊娠して、「お腹の大きい間は仕事を休んでそばにいてあげる」という妻への約束を守るために、丁度かち合ったこの映画の出演を断ったという経緯…。 ジェット・リーがもし出演していたら、剣の戦いのシーンが何十倍も本格的になっていただろう。惜しいなぁ。チョウ・ユンファは気の毒と言えば気の毒。たった3週間ほどの剣術の特訓で映画に臨んだというから、自信もないし、さぞ大変だったろう。でもチョウ・ユンファは彼なりの英雄像を作って成功している。剣術よりも人間性に重きを置いて演じているからだ。また、角度を変えて考えると、本格的剣術が少なくなった分だけ、若手二人のロマンスの割合も大きくしたのだろう、とか勝手に判断している。 女性軍の裏話もある。ミシェール・ヨーは、ちょっとお年を召しているが、元ミス・マレーシアの美人。スタイルもいい。ロンドンでバレエ留学も経験し、太極拳など古典的な武術も習得していてアクション映画で活躍。 1997 年には 007 ジェームズ・ボンドの「トゥモロー・ネバー・ダイ」のボンドガールに抜擢され、ハリウッド・デビューも果たして、英語もバリバリ。 一方、新人女優チャン・ツィイーは北京舞踏大学付属中学と北京の中国中央演劇学院の出身。 1999 年の「初恋のきた道」のヒロインに大抜擢され、すぐ翌年にはこの「グリーン・デスティニー」の重要な役どころをもらっている超ラッキーガール。舞踏大学付属中学に通ったわけだから、ある程度は舞踊はできるが、剣術等のアクションは素人のはずだ。それが、アン・リー監督から言われるままに結構アクションをこなしたので、大先輩としてミシェール・ヨーは面白くなかったらしい。ライバル意識丸出しで撮影に臨んだという。 なお、中国語の原題「臥虎藏龍」は日本の漢和辞典でも、国語辞典でも、言葉の百科事典でも見つからなかった。 THXMOVIE.COM さんで調べさせてもらって、「場所が見かけ通りではないこと」という中国の格言だとわかった。これは文字通り英語に訳されて CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON という英題になっている。多分、主人公達が、表面上の顔と、裏の顔の二面を持っているという意味だと解釈している。 中国のグリーン・デスティニーという「碧名剣」は 400 年の歴史の有る名剣であった。その所有者のリー・ムーバイ(周潤發チョウ・ユンファ)は、日本で言えば仙人の里のようなウーダンという山深い寺で長年修行をつみ、正義を守り、世間の誰もが認める剣の達人であった。中年にさしかかって、その剣士としての生活を退いて家庭を持とうと、ウーダンから下山して碧名剣を北京の信頼のおけるティエ氏に献上する。その碧名剣の輸送はシューリン(楊紫瓊ミシェール・ヨー)という女性に託され、無事にティエ氏宅に届けられた。 このシューリンもやはりもう若くはなく、剣術を極めた女性剣士で、実はムーバイを慕っていた。ムーバイもシューリンを愛しく思っているので相思相愛なのに、二人とも心を伝えるタイミングと積極性に欠けて、周囲が期待しているのに結婚まで話が進まない。また、シューリンには以前ムーバイの友人である婚約者がいたが、「碧眼狐」つまりジェイド・フォックス(鄭佩佩チェン・ペイペイ)に殺されて、その後、一緒に剣の活動をしていたムーバイに心を寄せるようになったのだが、亡き婚約者を裏切ることになると思い、ムーバイへの思いを我慢しているのだ。 一方、ムーバイの剣術の師匠も碧眼狐に殺されているので、ムーバイはその仇を討たねばならない。碧眼狐の正体も知りたい。しかし、碧名剣を手放して普通人の生活になろうとしていることを亡き師匠に墓参りで謝ろうとしている。 シューリンが碧名剣をティエ氏宅に届けたとき、ティエ氏の隣に住む北京の長官の娘のイェン(章子怡チャン・ツィイー)という美しい年頃の女性と顔を合わせる。その時シューリンとイェンは姉妹の契りを交わす。そして、その夜、何者かが碧名剣を盗んだ。黒装束に身を包み、邸宅の屋根から屋根へ、フワーリフワーリと走ったり飛んだりして逃げ失せる。追っ手のシューリンも同様にフワーリフワーリと走ったり飛んだりして追いかける。ここら辺、チャイニーズ・ゴースト・ストーリー等で見る中国映画独特の幽玄の飛び方だ。また、日本の忍者のようでもある。 犯人は長官邸に逃げていった。犯人はイェンであった。イェンは富豪有力者のゴウ家の息子との結婚を親から無理強いされていて、挙式も真近であった。そして家族の誰も知らないが、侍女に扮している碧眼狐から、 10 歳のときから剣の秘術を教わってきていた。シューリンはその身のこなしから犯人はイェンであることを見抜き、本人も家族も傷つかない方法で碧名剣を返すように示唆するが、イェンは応じない。 そんな時、イェンの寝室に西域の格好の若い男が侵入する。実はこの男はロー(張震チャン・チェン)といい、西域の山賊の頭であった。北京の前に、イェンと両親の長官夫妻が数十人の家来に守られて西域赴任の旅の途中、ローを頭に山賊の数十人の一味が長官一行を襲い、宝石貴金属を盗んだ。その折、若い娘のイェンは大事にしている櫛をローに奪われ、勇敢にも馬にまたがりローを追いかけていく。女性子どもには暴力を振るわない、しぐさの優しいこの青年にイェンは心を奪われて、二人は西域の大自然の中で結ばれる。 しかし、ローは気持ちが優しいがゆえに、親が心配するからといってイェンを親の元に帰らせる。出世したらこの櫛を持って迎えに行くから結婚しようと。そして雄大な西域の山々を眺めながら、ある寓話を語る。ある若者が年老いた親の重病を治してもらいたいと祈ってあの山頂から飛び降りたら、傷つかず、空に舞っていった。そして親は病気が治った、と。物事、すべて信じれば実現するのだと。 親元に帰ったイェンは結婚話で気が重い。その上、碧名剣を盗んで、返す返さないの揉め事で頭がいたい。そんなところに突然ローがやってきたものだから、もう好きではないと追い返してしまう。傷心のローはイェンとゴウの結婚式の行進の列に「イェンは俺の女だ。一緒に行こう!」と飛びこんでくるが、追い払われる。逃げる最中にムーバイとシューリンに碧眼狐かと誤解されてつかまるが、本当の話を打ち明ける。二人は感動して、善処するから暫らくローに姿を隠すよう取り計らい、ムーバイはウーダンに紹介状を書いてローを見送る。 果たしてイェンは碧名剣を返しに来た。その時ムーバイはイェンと対面し、刀を合わせて、瞬時にイェンの剣術の素質を見抜く。師匠が誰なのか問い詰めてもイェンは答えない。さらによい師匠についたらもっと本物の実力がつくので自分の弟子になるようにとまで言う。しかし、実はイェンの剣術の師匠は侍女に扮している碧眼狐であり、またそれこそがムーバイが追っている師匠の仇敵なのであった。 一方、ムーバイに心を寄せているシューリンは、ムーバイがしきりにイェンを気にかけるのが女心として嬉しくない。またもや碧名剣はイェンの手に入り、シューリンとイェンは対決するが、シューリンはいかなる武器を取り替えて使っても、碧名剣を使うイェンにかなわない。 イェンは師匠である碧眼狐の限界に早くから気づいていて、自分でウーダンの秘伝書を解読して師匠を超えていたのだ。それを碧眼狐に伝えると、碧眼狐は弟子に裏切られたと言って傷心を味わう。また、妻を殺された警官の男と娘は仇討ちの機会をずっと待っていたが、碧眼狐と格闘の末、警官の男を碧眼狐は殺してしまう。殺人をしたことをイェンにとがめられて、碧眼狐は侍女役を退いて姿を消す。そしてイェンは碧名剣を使って我が物顔で暴力を振るって街を行く。ここでまたムーバイとイェンは竹林の上をフワリフワリと飛んで剣を合わせる。 碧眼狐は山中の洞窟に身を潜めて、疲れて逃げてきたイェンをそばで寝かせている。しかし、弟子に裏切られた悔しさから、眠るイェンのそばで阿片の香をたく。朦朧となるイェン。そこに正義の剣士ムーバイがやってきて格闘、ムーバイは碧名剣で碧眼狐をしとめる。が、同時に毒矢で首筋を刺されてしまった。この毒矢こそ、ムーバイの師匠も刺されて殺されたものだった。これは心臓にまわる紫陰という毒であった。 この解毒法はイェンだけが知っていた。ただし解毒の材料を取りに行かねばならない。シューリンは自宅にイェンを送る。一刻を争う。数時間か半日かムーバイは瞑想の姿勢でこらえていたが、ついに命の果てる時が来た。傍らでずっと見守るシューリンに「君を愛していた。人生を浪費した。」と最期の言葉を発して目を閉じる。シューリンは泣きじゃくりながら、動かないムーバイを抱きしめて最初で最後の口づけと抱擁をする。この時のシューリンの凄まじさは見ものだ。そこにイェンが薬草を持って戻ってきた。だが、遅すぎた…。 ムーバイを救えなかったイェンは、呆然として自暴自棄になって去ろうとする。しかし、自分の境遇を身にしみてわびしく感じ、相手が生きている間に成就しなかった恋を後悔しているシューリンに、こう言われる。自分の思う道を何が何でも進みなさい、と。そしてローがウーダンにかくまわれていることを伝える。因みにローの役は、金城武の話もあったらしいl。でも、監督はあえて新人を選んだそうだ。 イェンは山里の岩の何百段もの階段を登って、もやの煙る高地の剣の聖地ウーダンに到着する。ローと再会し、二人はめでたく再び結ばれた。これでハッピーエンド、と思ったが…。翌朝目覚めたローがイェンを探すと、イェンはウーダンのもやの中の橋で物思いで立っていた。下界はもやのかすむ幽玄の山々。イェンはローに「願いがかなうように祈っていて。」と言い残すと、橋から身を投げるのであった。あぁ、悲恋。泣けてくる。あまりにも美しすぎるもやの高地。ヨーヨー・マーの奏でるチェロの美しく憂いを秘めた音色が、この悲恋とどうしようもない結末を余計に際立たせている。 最後につくづく思うのだが、スタッフとキャストは、アジアの一国だけの人でなく、国際色豊かだということ。アン・リー監督とチャン・チェンは台湾、チョウ・ユンファは香港、ミシェール・ヨーはマレーシア、チャン・ツィイーは中国。映画では北京語が使われているので、普段は広東語を話すチョウ・ユンファは苦労しただろう。でも、やり遂げるから偉いなぁ。 以上。 <もっと詳しく>からスペースを含まず4637文字/文責:幸田幸 |
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