ジャンヌ・ダルク考 フランスのルーアン(ルアン ROUEN)に行った時の写真を加えて、2003年09月06日に書いたエッセイ「シャイな幸の独り言」の「03/17 「ジャンヌ・ダルク」の再編集」をアップしました。ここをクリック・・・ 「ジャンヌ・ダルク」の映画は、わたし的に気に入ってます。ミラ・ジョヴォビッチはラジー賞では、3回もワースト主演女優賞を獲得したデミ・ムーアの足元にも及びませんが、1992年「ブルーラグーン」でワースト新人賞、1998年「フィフス・エレメント」でワースト助演女優賞にノミネートされ、ついには2000年この「ジャンヌ・ダルク」でワースト主演女優賞を受賞します。 |
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幸は、ミラ・ジョヴォビッチの「フィフス・エレメント」での美しさ(多分このときは演技できなかったのでしょうか?異星人役でしたか。でも光っていました。)から、この「ジャンヌ・ダルク」では、意志が強そうな、それでいて田舎者であるジャンヌ・ダルクが強い信念にしたがって19歳で火あぶりで処刑されるまでを熱演、声をからして迫力一杯、時には押さえて大粒の涙で見るものを引き込んでいたと思うのですが、何故ラジー賞なのかわかりません。 まあそれはともかく、幸は、思い浮かぶ「アマデウス」「エリザベス」「恋に落ちたシェークスピア」「娼婦ベロニカ」「理想の結婚」「宮廷料理人ヴァテール」「不滅の恋人」「スノー・ホワイト」「仮面の男」「シラノ・ド・ベルジュラック」などは、時代や国やジャンルは一貫していませんが、案外歴史物や時代劇の豪華な衣装や貴族的なセットが目立つ時代考証物が好きなのかも知れません。 「幸の映画三昧」で「ジャンヌ・ダルク」をビデオでお浚いしてレヴューを書きました。今回観て、彼女がダスティン・ホフマン演じる「ジャンヌ・ダルクの良心」と対話しては裁判を受けるシーンの繰り返しが、少し頭から離れませんでした。 ジャンヌ・ダルクは自分で「神の声」を聞いたと信じ、「神の使い」だと自分を位置付けていました。それだからこそ、妥協すれば火あぶりで処刑されずにすんだものを、自分の信念を捨てない道を選んだのです。彼女の考えが裁判の中で述べられている宗教裁判の喚問の過程がよく解る英文の記事を見つけましたので、抜粋して訳してみました。誤訳があればお教え下されば幸いです。なお、原文はMUSEE JEANNE D'ARC ROUEN - FRANCE http://www.jeanne-darc.com/ から引用させて頂きました。 THE TRIAL OF CONDEMNATION 宗教裁判 Question: At what age were you when you first did hear these voices? 初めてこれらの声を聞いたのは何歳だったのか。 Answer: I was thirteen when I had a voice from God for my help and guidance.The first time that I heard this voice, I was very much frightened, it was mid-day, in the summer, in my father's garden . . . I heard this voice to my right, towards the Church, rarely do I hear it without its being accompanied also by a light. This light comes from the same side as the voice. Generally it is a great light . . . 神の声を聞いたのは13歳のときでした。私への助けと導きの神の声でした。初めてこの声を聞いたときはとても怖かったです。父の庭園で、夏、真昼のことでした。…私がこの声を聞いたのは教会に向かって右側で、聞こえるときはいつも光りが一緒です。この光りも声と同じ方からさしてきます。大体、凄く明るい光りです。 Q: How long is it since you heard your voices? 一番最近その声を聞いたのは? A: I heard them yesterday and today. 昨日と今日、聞きました。 Q: What were you doing yesterday morning when the voice came to you? 昨日の朝その声を聞いたときは何をしていたのか。 A: I was asleep. The voice awoke me. 眠っていました。その声で目覚めたのです。 Q: Was it by touching you on the arm? 腕に触れられて目が覚めたのか。 A: It awoke me without touching me. 目が覚めたのは触れられたからではありません。 Q: Was it in your room? その声はお前の部屋の中にいたのか。 A: Not so far as I know, but in the Castle. わかる限りでは部屋の中ではありませんでしたが、城の中です。 Q: Did you thank it? Did you go on your knees? お前はその声に感謝したのか?ひざまずいたのか? A: I did thank it. I was sitting on the bed. I joined my hands. I implored its help. The voice said to me, "Answer boldly, God will help thee" . . . (then addressing the Bishop of Beauvais) You say you are my judge. Take care what you are doing, for in truth I am sent by God, and you place yourself in great danger. 確かに感謝しました。私はベッドに座っていました。両手を合せました。助けを請いました。するとその声はこう言ったのです。「勇気を出して答えよ。神が汝を助け給うであろう。」…(それからボーヴェ司教に対してこう言い放った)あなた様は私を裁くとおっしゃる。何をなさっているのかお気をつけなさい。なぜなら私は本当に神から遣わされた者なのですから。あなた様は大変な危険な目に会われることになります。 Q: Has this voice sometimes varied its counsel? この声は助言を変えることは時にはあったのか? A: I have never found it give two contrary opinions. 二つの矛盾した意見を言うのを一度も聞いたことがありません。 Q: This voice that speaks to you, is it that of an Angel, or of a Saint, of from God direct? お前に語りかけるこの声は、天使からの声か、聖者からの声か、それとも神から直接の声なのか? A: It is the voice of Saint Catherine and Saint Margaret. Their faces are adorned with beautiful crowns, very rich and precious. 聖カトリーヌと聖マーガレットの声です。お顔は美しい王冠で飾られ、王冠は大層きらびやかで立派です。 Q: How do you know if these were the two Saints? How do you distinguish one from the other? この二人が聖者だったとどうやってわかるのか?二人をどうやって見分けるのか? A: I know quite well it is they, and I can easily distinguish one from the other. 聖者だとはっきりわかります。それにお二人を見分けるのはた易いです。 Q: How do you distinguish them? 二人をどうやって見分けるのだと訊いているのだ。 A: By the greeting they give me. It is seven years now since they have undertaken to guide me. I know them well because they were named to me. 私に挨拶してくれるからです。私をお導き下さり始めてからもう七年になります。私がお二人をよく存じているのは、お二人は私に遣わされた方々だからです。 Q: What was the first voice that came to you when you were about thirteen? お前が13歳のころ初めて聞いたのはどんな声だったのか? A: It was Saint Michael. I saw him before my eyes, he was not alone, but quite surrounded by the Angels of Heaven. 聖マイケルでした。私は目の前にそのお方が見えました。お一人ではなく、天国の天使たちが囲んでいらっしゃいました。 Q: Did you see Saint Michael and these Angels bodily and in reality? お前は聖マイケルと天使たちの肉体を見たのか、体を現実に見たわけか? A: I saw them with my bodily eyes as well as I see you, when they went from me, I wept. I should have liked to be taken away with them. 聖マイケルと天使たちは、今あなた様を見ているのと同じように、ちゃんとこの目で見ました。私から立ち去られる時には私は涙を流しました。あのお方たちに連れて行ってもらえたらよかったですのに。 Q: What sign did you give to your King that you came from God? お前が神から遣わされたというどんな徴候を王にお伝えしたのか? A: The sign was that an Angel assured my King, in bringing him the crown, that he should have the whole realm of France, by the means of God's help and my labors, that he was to set me to work . . . that is to say, to give me soldiers; and that otherwise he would not be so soon crowned and consecrated. 徴候としては、一人の天使が私の王様に王冠をもたらし、王様がフランスの全領地をご所有なさることを保証してくれたこと、神の助けと私の働きによって、王様が私を仕事に従事させてくださる…つまり、私に軍勢を与えて下さらねばならない、さもなければ王様が王位に就くことも神に清められることもずっと先になってしまいますでしょうということです。 Q: Of what material was the said crown? 上述の王冠はどんな材質でできていたのか? A: It is well to know it was of fine gold, it was so rich that I do not know how to count its riches or to appreciate its beauty. The crown signified that my King should possess the Kingdom of France. 純金でできていたとわかるのは喜びであります。王冠は大変きらびやかなもので、その財宝をどうやって数えたらいいかも、美しさをどう味わったらいいかもわからないくらいです。 Q: Were there stones in it? 王冠には石ころは混じっていたか? A: I have told you what I know about it. 私が存じていることはお答えしました。 Q: Did you touch or kiss it? 王冠に触れたり口づけしたりしたか? A: No. しておりません。 Q: Did the Angel who brought it come from above, or along the ground? 王冠を持ってきた天使が来たのは、天上からか、それとも地上からか? A: He came from above, I mean, he came at our Lord's bidding. He entered by the door of the chamber. 天上からです、つまり、神の言いつけ通りにいらしたと言っているのです。天使さまは私室の戸口を通って入っていらっしゃいました。 Q: Did he move along the ground from the door of the chamber? 私室の戸口から地上沿いに動いたわけか? A: When he came into the King's presence, he did him reverence, bowing before him and speaking the words I have told you about the sign. Then he reminded him of the beautiful patience he had shown in the face of the great tribulations which had come to him. And from the door of the chamber he stepped and moved along the ground as he came to the King. When the Angel came I accompanied him and went with him up the steps to the King's chamber, and the Angel went in first. And then I said to the King, "Sire, there is your sign . . . take it." 天使は王様のいらっしゃる所に入って来た時、王様を敬い、王様にお辞儀をして、先ほどあなた様にお話した徴候のお言葉を語りました。それから天使を見て、王様はそれまで味わってきた大変な苦難にもかかわらず見せてきた麗しい忍耐力のことを思い起こしました。そして天使は王様の所に近づくとき、私室の戸口から地上沿いに移動してきました。天使が来たとき私も天使と連れ立って王様の私室への階段を上りました。天使の方が先に入りました。それから私は王様にこう申し上げました。「陛下、この徴候をお受け下さい。」 Q: Do you know if you are in the Grace of God? お前は神の恩寵を受けているのかわかっているのか? A: If I am not, may God place me there. If I am, may God so keep me. I should be the saddest in all the world if I knew that I were not in the grace of God. But if I were in a state of sin, do you think the voice would come to me! I would that every one could hear the voice as I hear it. もし神の恩寵を受けていなければ、どうぞ神が私に恩寵を授けて下さいますように。もし神の恩寵を受けているならば、どうぞ神が私をそのままにして下さいますように。もし神の恩寵を受けていないと知ったら、私は世界で一番悲しむことになるでしょう。でも、仮に私が罪のある身なら、神の声が私の元に来ると思われますか?私が聞こえるのと同じようにみんなも神の声が聞こえたらよいですのに。 A: He came for a great purpose. I was in hopes that the King would believe the sign, and that they would cease to argue with me, and would aid the good people of Orleans. The Angel came for the merits of the King and of the good Duke d'Orleans. 神は大いなる目的の為にいらっしゃいました。王様がその徴候を信じて下さることと、王様たちが私と論争するのを止めることと、オルレアンの善良な市民達を援助して下さることを、私は望んでおりました。天使がやって来たのは、王様と、オルレアンの良き公爵のためになるからです。 Q: Why to you rather than to another? では、何故、別の者ではなくお前の元にやって来たのか? A: It has pleased God so to do by a simple maiden, in order to drive back the enemies of the King. 王様の敵たちを追い払うために、単なる乙女を通してするのが神をお喜ばせしたからです。 Q: If the Church Militant tells you that your revelations are illusions, or diabolical things, will you defer to the Church? もし教会の好戦的な者が、お前の天啓が幻想だ、或いは悪魔のものだと言ったら、お前は教会に敬意を払って従うか? A: I will defer to God, Whose Commandment I always do . . . In case the Church should prescribe the contrary, I should not refer to any one in the world, but to God alone, Whose Commandment I always follow. 私は神に敬意を払って従います。神命には私はいつでも従っております。…たとえ教会が反対のことを命じたとしても、私は世界の誰にも帰しません。私が帰するのは神だけです。神命には私はいつも従っています。 Q: Do you not then believe you are subject to the Church of God which is on earth, that is to say to our Lord the Pope, to the Cardinals, the Archbishops, Bishops, and other prelates of the Church? では訊くが、お前は地上にある神の教会の臣下であると信じていないのか?つまり、法王にも、枢帰卿にも、大司教にも、司教にも、教会の他の高位聖職者たちにも服従しないわけか? A: Yes, I believe myself to be subject to them, but God must be served first. いいえ、私はその方たちに服従していると信じております。でも、私は先ず神に仕えねばなりません。 Q: Have you then command from your voices not to submit yourself to the Church Militant, which is on earth, not to its decision? では、地上の教会の好戦的な者へ服従しないよう、また、教会の決定することに従わないように、お前のいう声からの命令を受けるのか? A: I answer nothing from my own head, what I answer is by command of my voices, they do not order me to disobey the Church, but God must be served first. 私が答えているのは全然自分の頭からではありません。私が答えているのは私の声に命じられてなのです。声は教会に従うなとは私に命じてはおりません。でも、先ず神に仕えねばなりません。 |
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ジャンヌ・ダルクの生家 |
ジャンヌ・ダルクの部屋 |
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以上のように中世ヨーロッパでは法王庁と教会の権力が絶対であったにもかかわらず、彼女は、自らの信念は神の意志であると信じ裁かれるのです。 因みに、この掲載した文書に出る、裁く側の司教はボーヴェのピエール・コーションという名の方です。フランス語で「Pierre Cauchon」と書きます。ボーヴェは地名です。後に、彼の評判は、殺人を正当化するための神学的事由を編み出したり、教会裁判で世論操作をはかった悪辣な高位聖職者として*書物で紹介されています。(*「ヨーロッパ II 中世」ノーマン・デイビス 著、別宮貞徳 訳/共同通信社出版) 宗教裁判の判決で、「魔女」「異端」として処刑された後、約500年たって、ジャンヌ・ダルクは聖人「Saint Jeanne」として列挙されるようになります。これには幸は、彼女は国家レベルでフランスやイギリスの外交政治に利用され、そしてシャルル7世に巧みに利用されたのではないかという疑念が湧いてきます。 ジャンヌ・ダルクがドンレミの村で生まれ、ルアンで処刑された1412年〜1431年の19年間は、フランスが二国に分裂した英仏の百年戦争の時代(1337〜1453年)の中でした。 イギリスのブルゴーニュ派とアルマニャック派(どちらもぶどう酒の銘柄でしか馴染みがない)の思惑の中で、小作農で牛・羊飼いの田舎娘が「神の声・啓示」を聞いた「神の使いThe Messenger」として、「軍人=隊長」としてフランス王国を勝利に導きます。フランス語ではジャンヌのことを「La Pucelle」、英語では「The Maid」日本語では「乙女ジャンヌ・ダルク」でしょうか。 敗北に近かったフランス軍の士気を高め、自ら髪を切り男装をして、それこそ物に取り憑かれたように戦います。彼女は百戦錬磨の頑強な武将の力を借りて、オルレアンで大きな勝利を3つ収めます。オルレアンを解放しシャルル7世がランスで戴冠し、ジャンヌは神の命を果たします。 その後シャルル7世は戦争ではなく外交の駆け引きで政治を行っていきます。その中でジャンヌはなおも戦い続けます。戦地で、ブルゴーニュ派の捕虜となり、6ヶ月投獄鎖に繋がれ、シャルル7世の援助もなくイギリスに売り飛ばされます。「神の使者」は地に落ちてしまいます。イギリスはジャンヌを「異端」として宗教裁判にかけ、結果死刑が判決され、ジャンヌは今はプラス・デュ・ヴィユ・マルシェ(古市場広場)広場となっているルアンの地で火刑執行されます。その後25年たって彼女の裁判無効宣言が発せられ無罪となります。そして1920年ジャンヌは聖人として法王庁のお墨付きをもらうことになります。 実際、ジャンヌに「神の声・啓示」が聞こえたのでしょうか? 本当に彼女が「神の使い」だったのか知る術もありませんが、田舎者で文字も書けない彼女がどうして国王シャルルに会えたのでしょうか。そして彼女は戦争戦略ができ指揮官として能力があったのでしょうか?しかし実際に有り得ないと思われた歴史的大勝利である「奇蹟」を起こします。本当に神が取り憑いていたのでしょうか? もし彼女が「神の使者」であるなら法王庁の教会はそのお株を奪われ面目が立ちません。自然信仰や仏教や神道の日本と同じように、中世フランスにも自然信仰・聖人信仰とキリスト教信仰は並存していたと思います。宗教裁判の喚問の中に聖人カトリーヌやマーガレットの名前が出てくるのも教会にとっては好ましくありません。況してや聖書で禁じられていたとされる男装も教会にとって好ましくありません。結局ジャンヌは教会と神を蔑ろにしたことになってしまいます。 ジャンヌ・ダルクは、幸の歩んできた人生に当てはめると高校生から大学生の10代の若さで、国家の問題ごとに取り組んだことになります。国家は大きな力で彼女を飲み込んでいきます。もし、彼女に変化球を投げれる知恵があれば、「奇蹟」を巧みに利用できたのではないでしょうか?シャルル7世の政策転換をすばやく悟り、戦勝ボーナスでも頂いて故郷に戻れば死刑になることはなかったでしょう。また宗教裁判でいろいろ理由を付けて問題になる男装を止め、教会の面目を立てる、PR発言をすれば事態は大きく変わっていたかもしれません。 しかし、彼女の一途な「乙女」の信念は自らの肉体を滅ぼして尚且つ歴史に深く刻み込まれ、今も息衝いています。例え大きな力のプロバガンダに利用されようとも、ジャンヌ・ダルクの純粋無垢な熱情は時代をこえて人の心を動かして止みません。 以上、幸は、「ジャンヌ・ダルク=聖ジャンヌ」から「純粋な熱情は人を動かす」ことを学んだ、幸のお勉強でした。 (以上、9669文字) |
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